入居申し込み

世間のサービス付き高齢者向け住宅には、空き部屋の多さに悩まされているところも多いと聞く。
では介護付有料老人ホームはどうなのだろう? というのも、うちの施設(介護付有料老人ホームである)も、空き部屋がすぐに埋まらないことがあるからである。

満室の状態でも、待機者は常に数名程度。そしていざ空き部屋ができた時に連絡すると、今は在宅で落ち着いて過ごしていたり、別の施設に入ったなどの理由からキャンセルが多い。
有料老人ホームに入居するのはタイミングの問題が大きいのかもしれない。結局、施設に入居したいのは病院から退院を求められた時が多く、そこで施設が決まらずに、やむなく自宅に戻って居宅サービスを組めば在宅生活ができるものなのだろうし、また幸運にも施設が見つかれば、喜んでそこに入所する。「どうしてもこの施設がいい」とはあまり考えられない。

私が住宅型有料老人ホームで勤めていた時は、併設のデイサービスやお泊りを利用していただいていた方が、やがて入居されるというパターンが多かった。つまり、「そろそろ施設に入った方がいいかもしれない」という状況の方を何人かキープできていたわけである(キープ、とはあまりいい言葉ではないと思うが)。
また居宅サービスをやっていた関係上、出入りするケアマネさんも多く、紹介していただくことも少なくなかった。

デイサービスやお泊りがあると、まずはその施設に馴染んでからそのまま入居できることになるので、ケアマネさんにとっても、ご家族さんやご本人さんにとっても安心感があるようだ。
これは介護保険施設でも同じで、デイやショートステイから入所に結び付けるパターンは多い。

うちの法人の場合、新しくできた介護付有料老人ホームにデイサービスから入所、というのはまだあまりないようだ。小規模デイだから止むを得ないかもしれないが、そのあたりからうまく入居へと繋げる努力があっても良いと思う。

ただ、できれば在宅生活を続けるに越したことはない。まだ在宅を続けられるのに施設に入所していただくよりは、やはり緊急性の高い方に入っていただくことで、地域の社会資源となりたいものである。

家賃の前払いと後払い

一般的に、賃貸の部屋を契約すると、家賃は前払いである。つまりアパートやマンションに12/1から入居する場合、11月末までに12月分の家賃を支払うというわけだ。
これは法律で決められているわけではないので、契約によっては後払いでも構わないはずだが、敢えて後払いで可としている家主はいないのではないか。

しかし、介護業界では。
有料老人ホームは、基本的には高齢者に住まいと食事を提供しているだけである。必要な生活援助や介護は、特定施設入居者生活介護として包括的に提供するにせよ、併設や外部の訪問系・通所系事業所が提供するにせよ、有料老人ホームそのものとはあくまで別である。
それでも、有料老人ホームの家賃は、その他の費用と同じく、後払いとするのが普通だろう(ここでは、「前払い」とは入居一時金として徴収するもののことではなく、毎月、翌月分を先に支払うことを指す)。

介護保険適用の有無を問わず、提供するサービスの利用料は後払いとなる。これを前払いとしてもらうわけにはいかないし、例え可能であったとしても、実際に利用されたサービスが計画と異なっていた場合にその分の費用を返金する方が面倒だ。
また介護保険施設では、居室利用料は家賃相当額とは言っても、家賃そのものではない。敷金を取ることもできない。これを先払いしてもらうわけにはいかないだろう。
しかし有料老人ホームだったら? 先払いしても問題はないのではないか?

先払いのメリットは、料金の支払いが延滞し支払い不能となった場合に、回収できなくなる金額をその分減らせることである。まあ逆に言えば、メリットはそれだけだということだ。実際にそういうシステムを採っている有料老人ホームは多くないと思われる(私は一つも知らない)。

だからどうした、ということもない。そういうやり方もあり得るのかな、というだけの話。

サ高住苦戦

既に、サービス付き高齢者向け住宅で需要と供給のミスマッチが起きているという。

急増するサ高住にミスマッチ:ワールドビジネスサテライト:テレビ東京
http://www.tv-tokyo.co.jp/mv/wbs/newsl/post_52613

高齢者向け住宅を入居希望者に紹介する「ローゴのチカラ」の槌井渉高齢者事業部長は、サ高住について「関心は高いが実際の入居は様子見という人が多い」と指摘します。業界大手の「メッセージ」が東京・足立区に去年末オープンしたサ高住「Cアミーユ北綾瀬」では、入居率が30%程度。有料老人ホームなどに比べ、サービスが限られる反面、料金が比較的低く抑えられる「サ高住」の良さが十分に伝わっていないのが現状だ、と話しています。

良さ、ねえ。
確かに元気なうちは費用はそれほど掛からないが、今後どうなるかの保障はない。介護が必要になったら、場合によっては区分支給限度額内に収まらずに莫大な費用がかかることになりかねない。
世間は、できるだけ住み慣れた自宅で暮らし、いざそれが困難になったら、後は最期まで安心して暮らせる終の住処を求めているのだ。元気なうちに安くない費用を支払ってサ高住に住み替え、介護や医療のニーズが高くなったら別の施設や病院へ、と考える人はそう多くはない。

国交省がサービス付き高齢者向け住宅を普及させようと補助金を出したため、それを利用しないと損だとばかりに多くの事業者が参入したが、結局利用率が上がらずに苦労しているのだろう。
また税金の無駄遣いか……

サ高住のメリットとデメリットを考える

先日のエントリ「介護給付費を当てにしているサービス付き高齢者向け住宅には近寄るな」は、あたかも全てのサ高住を否定しているかのように見えるかもしれない。
しかし、私が非難しているのは、限度額いっぱいサービスを使ってもらうことを前提に必要のないサービスを押しつけること、そして今後の見通しのない経営方針、その2つだけである。

実際、サ高住にはどんなメリット、デメリットがあるのだろうか。今日はそれを考えてみたい。
長所と短所は表裏一体であることに注意。また、特に記してはいないが、比較の対象として想定しているのは特定施設である。
(サ高住も特定施設の指定を受けることができるが、ここではそうした施設は除外して考える。)

1. 介護保険サービスが、計画に従って提供される。
 ○:必要な時に必要なだけ利用することができる。
 ✕:必要のないサービスが組まれる可能性がある。また、飲食や排泄の介助など、短時間で回数の多い介護には不便。

2. 介護保険サービス費用が、提供したサービスの量と内容により決まる。
 ○:必要なサービスが少なければ、その分費用負担も少なくて済む。
 ✕:必要なサービスが多くなると、区分支給限度額内では収まらなくなり、自己負担分が膨大になって、時には数十万円にも上ることさえある。

3. 介護の提供者が、本体である施設の従業員、訪問介護事業所の従業員、通所介護事業所の従業員……と多岐にわたる。
 ○:各々の職員が、それぞれの専門性を発揮できる可能性がある。
 ✕:連携や情報共有に手間がかかる。

4. 人員配置基準が緩い。
 ○:各々の施設の実情に応じた柔軟な人員配置が可能。
 ✕:介護保険外でのサービスを充分に提供できるだけの人員が、配置されていないことがある。

5. とりわけ、看護師の配置義務がない。
 ○:(メリットなし)
 ✕:日常的な健康管理、特に下剤や緩下剤の調整、浣腸や摘便による排便コントロールが困難。
 また経管栄養、インスリン注射などが必要な方も事実上入居できない。
 さらに施設での看取りが難しくなる。訪問看護サービスで補うにしても、例えば訪問看護師が点滴を開始し、それを施設職員が片付けるといったことさえできないのでは不便。さらに本人の状態を見て主治医や訪問看護ステーションに連絡するか、それとも施設職員が経過を観察するかといった判断を適切に下すことは、看護師以外の者にはほぼ無理である。

6. 利用できるサービスが多い。
 ○:介護保険で福祉用具貸与、訪問リハビリテーションなども利用できる。
 ✕:(デメリットなし)

まとめると、以下のような方がサ高住に適していると言えるだろう。

・状態が急激に悪化することなく、介護度が低いままで長期間推移する方(ただし、それを前もって予測することは非常に困難であるのは言うまでもない)
・あくまでも、比較的元気なうちの一時的利用であり、医療ニーズが大きくなれば退所しても構わないと考えている方。
・夫婦での入居や、家族の頻繁な訪問によって、家族による介護量が確保されることが見込める方。
・多彩なサービス、とりわけ訪問/通所リハビリテーションを利用したい方。

そうでない方は、特定施設を選択した方が絶対に得策である。
くれぐれも、サ高住に終の棲家を期待しないことだ。

介護給付費を当てにしているサービス付き高齢者向け住宅には近寄るな

サービス付き高齢者向け住宅が増えている。

一番の理由は、介護事業に参入したい企業が始めるのに、ハードルが低いことだろう。
サービス付き高齢者向け住宅は特定施設の指定を受けることもできるが、多くはそうしたいわゆる「介護付有料老人ホーム」ではなく、「住宅型有料老人ホーム」と同じ形態を取る。つまり、介護サービスはホームが包括的に提供するのではなく、訪問介護や通所介護事業所から提供することとなる。

実際のところ、そうして区分支給限度額いっぱいまでサービスを使ってもらうことができれば、保険給付額は特定施設よりも高くなる。しかしそんなことはそうそうできることではないのは、エントリ「住宅型有料老人ホームと併設事業所」などで書いた通りだ。
特定施設として指定を受けられるなら、それに越したことはない。

しかし特定施設は総量規制の対象であり、つまりは基準を満たして指定申請しても、自治体の介護事業計画で計画されていなければ指定が下りることはない。そのためなかなか思うようには開設できないのが実情である。
自治体から特定施設としての指定の内定が出るのを待てないなら、サービス付き高齢者向け住宅、あるいは住宅型有料老人ホームとして開設するしかない。そのこと自体は良いも悪いもない。

しかしこうした施設では、とにかく限度額いっぱいまでサービスを使ってもらうことを至上命題としている事業所がある。文字通り金儲けしか考えていないところもあれば、そうしなければ経営が立ち行かないという理由からそうしているところもあるだろうと思う。

いずれにしろ、スタッフとしても、また利用者としても、そういう施設には近づかないのが賢明だ。
スタッフとしては、いつ収入や職そのものを失うかわからないからであり、利用者としては、いつ出て行ってくださいと言われるか、またいつ介護保険制度上の報酬改定とは関係なく値上げされるかわからないからである。
ましてや、スタッフは制度上のグレーゾーンで働くことになり、精神衛生上も良くないだろう。

限度額いっぱい使うことを前提としたサービス計画は、現在のところは行政からは黙認されているようである。しかし給付費抑制の風が吹いている中、そんなのはいつまで続くかわからない。いつ行政の目が厳しくなっても不思議はないのだ。
それは経営者であれば当然考慮しておくべきであり、つまりはたとえ保険給付がなくとも運営していけるだけの資金計画が、サービス付き高齢者向け住宅を作る際には必要なのである。

それが簡単なことではないのは当然だ。
しかし絶対に必要なことであり、そのため、サービス付き高齢者向け住宅の運営は非常に難しいのである。そのことを考えていない者が多すぎるように思う。