【書評】高岡望 『日本はスウェーデンになるべきか』

ABBA、The Cardigans、The Wannadies、Cloudberry Jam、Pineforest Crunch、Cinnamon、Eggstone、club8、The Trampolines、The Loch Ness Mouse、The Radio Dept.、Mando Diao、The Legends、Lacrosse、Ceasars、Miss Li、Hello Saferide……私のiTunesに入っている曲を国別に見ると、最も多いのはイギリスで、次いでアメリカ、日本と来て、4番目はスウェーデンである。

1970年代にABBAが世界的にヒットし、1990年代にもスウェディッシュ・ポップのブームが起こった。当時は日本にも盛んに紹介され、上で名前を挙げたうちの何組かは、今もBook-Offの250円コーナーの常連となっている。
スウェーデン人と日本人は音楽の好みが似ているのかもしれない。

さて、この本である。
著者はまず、スウェーデン人と日本人の類似性を示す。次いで、スウェーデン人の本質として、「自立した強い個人」「規則に基づく組織力」「透明性」「連帯」を挙げる。そしてスウェーデンの制度が、この本質にどのように支えられているのかを明らかにする。

どうしても先に読んだケンジ・ステファン・スズキ『消費税25%で世界一幸せな国 デンマークの暮らし』と比較してしまうのだが、ケンジ・ステファン・スズキが長年デンマークで暮らしているデンマーク人としての視点からデンマークの生活を描いているのに対し、この著者は外交官として数年間赴任している間の経験とデータを元に、スウェーデンという国全体を分析している。

同じ北欧の国として、デンマークとは共通点も多い。国民は全て個人番号を付与されていること、子供は手当が支給されなくなる歳(スウェーデンでは16歳)から独立し、成人後も親と同居することはほとんどないこと(子供との同居率は4%。ちなみに日本は44%)、労働組合への加入率が高く、連帯賃金政策により同一労働同一賃金が目指されていること(デンマークのように完全に実現されているのかどうか、つまり同じ仕事であれば、どの企業に勤めても同じ賃金なのかははっきりしないが)など。

デンマークと最も違うと思うのは、「透明性」だろうか。スウェーデンでは、誰でもネットで車のナンバーから持ち主を調べられるらしい。それほどに情報開示が徹底されているのだ。
また、直接この「透明性」を表しているかは定かではないが、スウェーデンの家庭は昼も夜もカーテンが開けっ放しだという。慣習なので正確な理由があるわけではないが、カーテンを閉めていると、人目を遮って悪いことをしていると思われるからではないかと言う人もいるようだ。

スウェーデン人の国民性、政策、そして歴史を概観するのには最適の書と言えそうである。問題は著者がタイトルで投げかけている「日本はスウェーデンになるべきか」という問いの答だが……著者はどちらとも述べない。その問いを日本人が考えるための一助となることのみを望んでいる。

背景がこれだけ違う以上、「日本はスウェーデンにはなれない。しかし学ぶべきことは多い」というのが、一番落ち着く着地点ではあるだろう。何を学び、採り入れることができるのか……スウェーデンは確かに参考にすべき国の一つであり、今後の日本のあり方を考えるためには絶対に知っておく必要がある。
社会保障だけでなく、経済などに関心のある方にも、広く勧めたい一冊である。

(評価:★★★☆☆)


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【書評】ケンジ・ステファン・スズキ 『消費税25%で世界一幸せな国 デンマークの暮らし』

高福祉高負担を実現させている国として、以前よりデンマークには興味があった。そのためiTunes Storeで「人気作品」として並んでいるこの本を見つけた時に、即購入した。

著者は若くして日本からデンマークに移住、家庭を持ち、会社を起こしたという。あくまで一市民としての視点から、デンマークを紹介しており、実に読みやすく興味深い。

デンマークの人口は兵庫県と同じくらいだという。まずそこに驚いた。意外に小さな国なのだな、と。
全国民がかかりつけ医を持っており、医療費は全て無料。ただし医師が必要と判断しないと、いくら希望しても治療は受けられず、風邪くらいでは薬も出してくれないという。
これは医療費抑制には効果的だろう。日本では、特に高齢者医療で必要のない鎮痛剤、緩下剤などがどれだけ出されていることか!

それにしても、デンマークの社会の実情は、驚きの連続だった。まさにカルチャーショックである。
学校には入学試験がないという。高校や大学さえも。そのため偏差値というものがない。どんな仕事をするにも資格が必要で、いわゆる会社員(こういう概念はデンマークにはないらしいが)にも資格が要る。学校は資格を得るための場所なのである。
給与は、職業別の労働組合が決めるので、どの企業に勤めても職種が同じなら給与は同じとのことだ。
ということは、はっきり書かれてはいなかったが、昇給もないのではないか。

日本では年功序列制で、長く勤めてさえいればそれなりに昇進し給料も上がるが、デンマークでは給料を上げるためには学校で資格を得て転職するしかない。そのための門戸は開かれており、学校に行くのは何歳になっても可能で、全て無料である。
年功序列制は、働いている者からすれば有難いが、本来給与はその者の働きに応じて与えられるものであり、能力が低い者に高給を与えるのは企業にとっては無駄というものであろう。私は大学時代に某有名デパートの物流センターでバイトしていたことがあるが、長く勤めているだけの高給取りを何人も見た。

さて、デンマークの幸福度が世界一とは言っても、問題がないわけではない。
まずは離婚率が高いことだ。女性の就業率が76%と高く、一人でも暮らしていけることが、離婚を容易にさせている。子供の教育費も無料であるし。

次に自殺。人口あたりの自殺者数は日本の半分程度だが 、それでもヨーロッパでは少ないとは言えないようだ。これは離婚や配偶者との死別で、孤独になり自殺する男性が多いことが最大の理由らしい。
とにかく孤独な人が少なくないようだ。何しろ、子供は皆18歳で自立する。成人した子供とその親が同居しているという世帯はほとんどない。
つまり、高齢者はほとんど夫婦のみか独居なのである。

デンマークの制度について言及している本は何冊か読んだが、こうした実情には一切触れられていなかった。そのため、実に新鮮で面白かった。

例えば社会学者の橘木俊詔などは、日本はデンマーク型の福祉を目指すべきというが、いくらデンマークが優れた制度を持っているとはいえ、これだけ違った社会を持つ国のものを日本に持って来てうまく行くのだろうか。
デンマークはクリスチャンの国であり、倫理や哲学が初等教育から大学教育まで必須科目となっている。これが、高福祉高負担を国民に許容させている源であると著者は言う。なるほど、と思った。

デンマークのような共生の精神は、日本人にはない。これはキリスト教の言う博愛精神が、日本では根付いていないためではないか。
仏教で言うところの慈悲は、あくまでも仏の役割であって、人々は救済される対象でしかない。いざ困った事態に遭遇してから神仏にすがるのが日本人である。日頃から助け合って、共に生きていくことを、身銭を切って行える者はいない。

現在の暮らしはともかくとして、将来への安心という点では、日本はデンマークに比ぶべくもない。日本では、将来に不安を抱かずに済むのは一部の大金持ちか、想像力の欠如した人間だけである。
本当にそれで良いのか、それとも国民全てが安心して暮らしていくためのシステムを作っていくのか。それを改めて考えた方が良い時期が来ている。

(評価:★★★☆☆)


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【書評】杉山孝博監修 『認知症・アルツハイマー病 介護・ケアに役立つ実例集』

先日レビューした『認知症「不可解な行動」には理由がある』に続き、これも一般の方向けに書かれた本。
監修されている方は医師で、長らく認知症の方の治療と、そして介護者の方々と関わってきた経歴を持っている。
実際に執筆した方の名前は、少なくとも電子書籍版には記されていない。

事例を元にした周辺症状への対応方法だけでなく、様々な状況での認知症介護へのアドバイスが書かれており、一般の方には参考になるだろう。成年後見制度などについても分かりやすく説明されている。
事例は、何人ものモデルを組み合わせているらしいが、それだけに作り物感が漂ってしまっているのが少々残念。

中身は、ごく当たり前のことを書いているように見えるが、それは私自身の経験に照らし合わせて納得できるという意味でもあり、ご家族さんが最初に読む本としては手頃で良いだろう。
前に書評を書いた『認知症「不可解な行動」には理由がある』は、「こういう症状に対してはこうすべき」ということが理詰めで書かれていたが、こちらはもっと力を抜いた印象で、介護者にとっても気軽に読めるのではないか。

ただ、例えばオムツ外しへの対処法として、ポータブルトイレを置くなどして夜中に2時間おきに誘導という例があるが、施設ならともかく、自宅では介護者がもたないだろう。これを解決策とするのはいかがなものか。

また、対応方法として、嘘や騙しが満載。私はエントリ「やさしい嘘」「騙したりはぐらかしたりすることについて、改めて」「否定と騙し、はぐらかし」などで書いているように、それを否定するものではないが、一応触れておく。

さて、最後に、監修者である杉山先生の、「認知症をよく理解するための8大法則」「介護に関する1原則」「上手な介護の12カ条」を書いておこう。

<認知症をよく理解するための8大法則>
 第1法則:記憶障害に関する法則
 ①新しいことが覚えられない「記銘力の低下」
 ②経験そのものを忘れる「全体記憶の障害」
 ③現在から過去に遡って忘れていく「記憶の逆行性喪失」

 第2法則:症状の出現強度に関する法則
 相手が身近な人であればあるほど症状が強く出る

 第3法則:自己有利の法則
 自分に不利なことは認めない

 第4法則:まだら症状の法則
 しっかりした部分とおかしな部分が入り混じる

 第5法則:感情残像の法則
 記憶はなくしても感情は残る

 第6法則:こだわりの法則
 ひとつのことにこだわり続ける。無理にやめさせようとすると、逆にこだわりを強めてしまう

 第7法則:認知症症状の了解可能性に関する法則
 理解不能に見える認知症の症状のほとんどは、認知症の人の立場に立ってみると理解できる

 第8法則:衰弱の進行に関する法則
 認知症の人の老化のスピードは、普通の人の約2~3倍の速度で進む

<介護に関する1原則>
 認知症の人が形成している世界を理解し、大切にする。そして、その世界と現実とのギャップをできるだけ感じさせないようにする
<上手な介護の12カ条>
 1 知は力なり、よく知ろう
 2 割り切り上手は、介護上手
 3 演技を楽しもう
 4 過去にこだわらないで、現在を認めよう
 5 気負いは、負け
 6 囲うより開けるが勝ち
 7 仲間を見つけて、心軽く
 8 ほっと一息、気は軽く
 9 借りる手は、多いほど楽
 10 ペースは合わせるもの
 11 相手の立場でものを考えよう
 12 自分の健康管理にも気をつける

ところでこの本、iTunes Storeの電子書籍版では「ゲイ」のカテゴリに入っていたりするのだった。どういうミスだ……

(評価:★★★☆☆)


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【書評】佐藤眞一 『認知症「不可解な行動」には理由がある』

我々のような専門職向けではなく、一般向けに書かれた本である。著者は心理学者とのことだ。

まず「認知」や「記憶」とはそもそも何なのかを丁寧に解説するところからスタートしており、これは一般の人の理解の助けになるだろう。
とはいえ実のところ、介護従事者でも「認知」や「記憶」とは何なのかがよく分かっていない者が多い。(だから「認知症」を「認知」と略すことが広まっていたりするのだが、それは余談。)
認知症ケアに携わる専門職は、押さえておくべき内容だと言える。認知のメカニズムと、認知症によってどんな働きが阻害されるのかがわかっていないと、アセスメントしても、その方への理解には至りにくいからだ。

世に認知症の方への接し方を説いている本や小冊子は多いが、心理学の立場からこれだけ丁寧に、事例を用いて分かりやすく説明しているものはあまりないだろう。少なくとも私は初めて見た。
また認知症の方の「不可解な行動」への具体的な対処法が示されている点も良い。それらはよく言われる方法だったりもするのだが、何故そうするのが良いのか、その理由が示されているだけに説得力もある。バランス理論が用いられていたりするのもユニークだ。

実際のところ、認知症に関する研修のテキストにもなり得る本だと思う。ただ「アセスメントすれば答が見えてくる」と繰り返し、センター方式などのアセスメントのやり方を学ぶだけの研修より、この本を読んだ方が良いとさえ言える。

一般の方というより、むしろ専門職にお勧めしたい一冊である。

(評価:★★★★☆)


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【書評】山田昌弘 『ここがおかしい日本の社会保障』

私は比較的最近まで、現代の日本の抱える社会問題については、介護、高齢化、認知症の増加くらいにしか大した関心を持っていなかった。
しかし、社会問題は全て繋がっているのである。年金、医療、雇用、格差……

著者は、現在の日本の経済・社会問題は、高度成長期に合わせて設計された制度が、現在の社会情勢に合わなくなっているからだと主張する。
モデル家族(夫が正社員として働いているか、家族で自営業や農業などを営むかのどちらかであること)と生活保護の間を埋めるものがなく、これこそが日本の社会保障制度の最弱点だという。

経済活動のグローバル化と規制緩和により、非正規労働者が増えるのは、経済学者のライシュやバウマンが指摘するように必然のことである。
しかし独身者および家庭の夫が非正規労働者となることは、上記の「モデル家族と生活保護の間」に入ってしまうことになるため、現行の社会保障制度では救われない。そのため結婚ができなかったり、結婚しても子供が持てなかったりとなる。

これに対して著者が提案するのは、資力調査なしの給付金システム(ミニマム・インカム)や、年金マイレージ制などである。
最低賃金と生活保護による給付額が大差ないのでは、仕事を探して働く気にならないのは当然である。また子育てなどにより一時的に働けなくなった時にも収入が減ることがないようにするには、資産や家族の有無に関わらず、最低限の収入を保証する必要がある。
そして年金をマイレージ制にし、最低限の収入はミニマム・インカムにより保証されるとして、豊かな老後を送るための上乗せ部分を、それまでの人生で払い込んだ額に応じて決める。

なかなか説得力のある提言だと思う。
が、たぶんこうしたことは、政治家も官僚もうすうす気づいているのだろう。それでいて、こうした社会保障制度改革には二の足を踏んでいるのではないか。
所詮はワーキングプアなど自分たちとは関係ない話だし、社会保障費を増やすことは富の再分配を進めることに他ならないのだから、現在それなりの収入を得ている者の負担は増えざるを得ない。積極的になれというのが土台無理な話なのかもしれないと、寂しいことを考えた。

ところで、本の中にこんな文章がある。

教育訓練がそれほどいらない単純労働は経済にとって必要であり、検品する人、掃除をする人、ハンバーガーを渡す人、レジを打つ人、ティッシュやチラシを配る人、介護する人などをなくすことはできない。

社会学者にとっては、介護は「教育訓練がそれほどいらない単純労働」であり、賃金が低くとも致し方のない職業の一つらしい。

そして著者は、働く意欲があり、また生活を自分で支えねばならないのに正社員になれないため、非正規雇用で働かざるを得ない人が増えているとしており、雇用が増えればワーキングプアが減るかのように述べているが、介護の現場にいると、そこにはまた別の問題があるように思う。

介護の世界では、正社員(実際は運営主体は会社組織ではないところが多いのだが)になるのはそれほど難しいことではない。3年間非正規雇用で辛抱して介護福祉士を取得すれば、他業種に比べれば低い賃金ではあるものの、正規職員になることができる。このハードルは決して高くはない。
しかし、その低いハードルすら越えられないほどに、仕事ができない職員が多いのも事実なのである。これは雇用する側の問題というよりも雇用される側の問題である。言ってしまえば、まともに働くことのできない人が増えているのだ。

最後に。
高学歴ワーキングプアの存在など私が知らなかったことも多く、なるほどなと納得しながら読んだ。
『ガリレオ』(原作は読んでいないのでテレビドラマ限定かも)で、渡辺いっけい演じる栗林さんも辛いんだなと……

それにしても、2010年の時点で、30代前半では男性の47.3%、女性の32.0%が未婚だという。
そりゃ私の周りにも独身者が少なくないわけだ。凄い世の中になったものである。

(評価:★★★★☆)

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