受診の必要性

かつて老健で勤めている頃、私は、老健では入所者さんに適切な医療を提供するのは難しいと考えていた。
老健は、基本的に医療は全て施設内で提供し、その費用も利用料金に含まれている(いわゆる「まるめ」)。別に医療保険請求が可能なのは、高度に専門性が認められる治療に限り、外部の医療機関を受診する場合も、多くの費用は老健が負担することとなる。
その結果、どうしても他科受診は極力しないように、となる。これは仕方のないことだ。しかしその結果、必要な医療が受けられなくなることがある。

しかし。
最近は、老健のようなシステムは、医療費抑制、ひいては社会を維持していくために必要なのではないかと思うようになった。
例えば、高齢者が薬をもらうためだけに整形外科を受診する必要が果たしてあるのか。主治医が、専門医の助言の元で処方を継続すればいいではないか。
また義歯の調子が悪いからと、何度も歯科受診して調整を繰り返し、時には作り直すことの是非も、時々疑問に感じることがある。

本当に必要な治療かどうかを総合診療医である主治医が判断し、本人がそれに反してどうしても受診したい場合には自己負担割合を変えるとか、そうした工夫はできないものだろうか。

日本の医療保険、そして介護保険は、給付を受けるのは簡単だが、本当に必要な人への補償が充分でない。
これでは安心に繋がらない。

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総合病院受診

先日、職場の健康診断があった。

そこで不整脈が指摘された。これは初めてではない。ここ20年というもの、3回に一度くらいの割合でひっかかっている。
これまでは、「まだ若いから」という気がどこかにあり、気軽に考えていたのだが、そろそろそうも言っていられなくなった。

健康診断を受けた医院に紹介状を書いてもらい、今日、地域で一番の総合病院へ行ってきた。
紹介状には心電図を添付してもらってあったが、改めて心電図と、またレントゲンと血液検査も行われた。

自分のことで、紹介状を持って総合病院を受診するのは初めてだが、利用者さんを連れて来るのは、仕事柄、日常茶飯事である。
いつもそうだ。主治医からのレントゲン写真や血液検査結果が添付されていても、紹介先の病院では全て一から行われる。
そんなに市井の診療所の検査は信用できないのかな?

また、日を改めて心エコーとホルター心電図検査を行うこととなった。どうせなら、紹介する段階で医師同士がそこまで相談してくれていたら、一日受診で潰れることもなくなる。まあ私は自分のことなので文句を言うつもりはないが、もっと医療費を抑制しようという試みがあってもいいのでは? と思った次第。

それにしても、大丈夫かな、私の心臓……

施設による医療ニーズへの対応

平成24年度老人保健健康増進等事業「介護サービス事業所における医療職のあり方に関する調査研究事業」
http://www.mhlw.go.jp/file.jsp?id=145617&name=2r98520000034m9i_1.pdf

上記の資料より、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、特定施設入居者生活介護において、医療的ケアを受けている方がどのくらい利用されているかを見てみる。

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「胃ろう・経鼻経管栄養による栄養管理」は特養12.1%、老健10.3%で、特定施設は3.4%と明らかに低い。こうしたケアの必要な方は、ADLが全介助で意思の疎通も取りにくい方が多いので、特定施設のメリット(個室であること、希望があれば容易に外出できることなど)を生かしにくいだろうから、頷ける結果である。これは特定施設では対応が難しい、ということを必ずしも示してはいない。

中心静脈栄養、気管切開はやはりどこの施設でも無理らしい。うちの施設では以前中心静脈栄養を行っている方がいらしたが、恒常的にはやはり難しい。

酸素療法は、特養1.0%、老健0.8%であるのに対し、特定施設は1.3%である。微々たる違いといえばそうなのかもしれないが、特定施設では医療と介護が比較的分離しているので、必要な医療を受けやすいということを示していると思う。老健のように酸素の材料費が施設負担となることもないのだから。

驚きなのは、特定施設に透析の方が少ないことである。特養1.2%、老健0.8%に比して、特定施設では0.5%しかいない。
透析の方は特養や老健ではまず受け入れてもらえない、ということはこのブログで何回か書いたように思う。一番の理由は送迎の手間だが、医師の問題もある(このことはこれまで敢えて書かずにいたのだが……)
人工透析を受けられている方は、透析にさえ通えばあとは他の方と全く同じ程度の医学的管理で良い、というわけにはいかない。血液検査も頻繁に行う必要があるし、そもそもカリウムによって突然心臓が止まるリスクもあるので、専門医でない施設医師や嘱託医としては敬遠したくなって当然である。しかし特定施設であれば、透析に通う先の医師に主治医になってもらえばよい話だ。
透析に通う際の送迎も、特定施設であれば実費負担で可能である。経済的に恵まれていない方には厳しいが、最近うちの地域では、無料で送迎してくれる、透析を行っている医院がある。ただ全国的にどうなのかはわからないが。

特定施設はこうした医療ニーズへの対応を何より押し出していくべきだと思う。そして看取りへの対応も。
「医療ニーズが高くなっても最期までお世話させていただける、ベストな終の棲家です」というのが、現在では特定施設のあるべき姿ではないのか。

ただ、現状ではその後に「お金が払える方にとっては、だけれど」という一文が、どうしても付いてしまう。こればかりは否定しても仕方のないところである。

特定施設は多剤投与が多い?

6月の話になるが。
厚生労働省の中央社会保険医療協議会において、医師配置義務のない有料老人ホームの入居者は、特養や老健入所者に比べて服薬している薬剤数が多いことが報告された。

厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会 (第243回)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000033s56.html
(このうち、外来医療について(その2)に該当箇所あり)

全国老施協のJS-WEEKLY 388号より表を転載させていただく。

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7種類以上の内服薬を使用している者の割合は、特養が25.5%、老健が24.8%であるのに対し、特定施設では40.0%となっている。また特定施設では11種類を服用している者が約一割いる。
また1人当たりの内服薬数は、特養が5.0剤、老健が4.8剤に対し、特定施設では6.3剤とのことだ。

これは別に驚く結果でも何でもない。
まず、薬剤数が最も少ないのは老健だが、この理由は、①老健には医師がおり、他科受診は厳しく制限されているので、同じような薬剤の重複投与はまず起こらないこと、そして②薬剤費はごく一部の例外を除いて老健の負担になる(いわゆる「まるめ」というやつ)ので、老健としてはなるべく薬を減らしたいこと、である。

特養にはこうした制限はない。しかし、嘱託医以外の診療機関への受診となれば、対応するのは施設職員であり、そこで料金を徴収することはできないとなると、受診はなるべく控えてもらいたいと考えるのは致し方ないだろう。この結果、複数科を受診することによって多くの薬剤が処方されることは少なくなる。

これに対して、特定施設では、受診時の対応は家族が行っても良いし、実費を徴収したうえで施設職員が行っても良い。受診までのハードルが格段に低いのである。
医師にしても、もし自分の治療が気に入られなければ主治医を替えられてしまうのだから、本人や家族の希望はなるべく受け容れようと考えるだろう。

こうした事情があるのだから、単純に薬剤数を比較しても、その結果は重複投与や本来必要のない薬剤の使用が多いことを示すのか、それともより適切な医療を受けられていることを示すのか、それは全く判断できないはずだ。要介護高齢者に適した薬剤数は平均で一人当たり○剤である、という研究結果を得ない限り。

とは言っても、実際のところは。
うちの施設でも、私のような素人目には必要がないと思われる薬剤を使用している方は少なくない。これは決して看護師による管理が杜撰だからではない。本人や家族による希望があればそれを強く引き止めることはできないし、受診先で薬が処方されれば、それはもう使用するしかないのだ。

医療費抑制の観点から見ても、要介護高齢者の心身への影響から見ても、薬は減らせるならば減らすに越したことはない。しかし我々だって精いっぱいやっているのですよ、という特定施設からの話である。

あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会

昨日のエントリは風呂上がりに一杯やった後で書いたせいか、あまりに煽情的なタイトルになってしまった……今さら変えるのも何なので変えずにおくが、こういうことをするから妙な検索ワードで訪問される方がいるのだな(^-^;

さて、今日の話題。
エントリ「高齢者はマッサージがお好き」「あん摩と女」で書いた、訪問マッサージについて。

10/19、第1回の社会保障審議会/医療保険部会/あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会が開かれた(リンク)。

上記リンク先にある資料によると、訪問マッサージの不正請求の例として、こうある。

○ 「往療料」とは、歩行困難等、真に安静を必要とするやむを得ない理由等により通院で治療を受けることが困難な場合に、看家の求めに応じて看家に赴き施術を行った場合に支給できる。
○ なお、「往療料」は、治療上真に必要があると認められる場合に支給できるものであり、これによらず、「定期的もしくは計画的」に看家に赴いて施術を行った場合は支給できない。
○ しかしながら、近年、高齢者に対して、次のような内容に基づき電話や訪問等で勧誘を行い、受領委任払いで療養費請求を行うとともに、その際、本来は算定することができない「往療料」を算定の上療養費請求を行う施術者がいる。
・ 「健康保険が使えるから1割負担の数百円で施術が受けられる」
・ 「こちらから訪問するので通院の必要はない」
・ 「医師の同意書が必要だが、良い医者がいるので紹介する」
・ 「継続して治療することが大事なので、毎週、○曜日に訪問する
○ 上記の事例は、協会けんぽのみならず、他の保険者(特に後期高齢者広域連合)でも発生している可能性が高く、早急に適正化対策を講ずる必要がある。

実のところ、今現在うちの施設に来ている業者も、こんな感じではある。
もちろん利用されているのは通院が容易ではない方ばかりだし、主治医以外から同意書をもらったことはないが、該当する項目も多いと言ってよいだろう。

こうしたグレーゾーンにメスが入るのは、入居者さんの訪問マッサージの利用を容認している立場の私が言うのも何なのだが、大いに結構である。
しかし。

平成22年度の医療費は37兆4千億円。うち柔道整復療養費は4,075億円、はり・きゅうは317億円、マッサージは517億円となっている。
こうして金額にすると大きく見えるし、無駄は省くことに金額の多寡は関係ないのだが、それにしてもはり・きゅうとマッサージが医療費に占める割合は、合わせても全体のわずか0.2%である。この0.2%の適正化に労力をかけることに、それほどの意味があるのだろうか?

それよりも、エントリ「あん摩と女」で書いた、整形外科での高齢者への診療など、真に適正化を必要とする部分は他にもたくさんあるのではないか。

所詮は、あん摩マッサージ指圧やはり・きゅうは、医療保険が使われているとはいえ医師による診療ではないので、そこを絞るのが最もやりやすい(力を持った職能団体が圧力をかけてくることがない)ということなのだろう。

それに、あん摩マッサージ師の多くは視覚障がい者である。訪問マッサージの成長が彼らの社会的自立を進める効果があるとしたら……

こう考えて、何だか微妙な気持ちになった。