施設の手すり

施設においては、廊下や食堂などに手すりを設置するのは、当たり前だと考えられている。
介護保険施設の設備基準で手すりの設置が求められているのはもちろん、有料老人ホームの設置運営指導指針でも、

廊下の両側に手すりを連続して設けるなど、要介護者等が使用するのに適したものとすること。

とある。
「など」なので、手すりの設置は義務ではなく、代わりに安全に配慮した設備があればそれで良いのかもしれないが、指導されてしまうリスクを承知の上で、敢えて手すりを設けない度胸のある事業者は、まずいないだろう。

しかし私はこれまで、手すりを有効に使っている方を見たことがない。
その理由は、施設におけるあらゆる手すりは、利用さんの動線を完全にカバーしていないからである。手すりはどうしても、居室やトイレのドア、職員の通路などによって寸断される。
これにより、つかまるところがなくては歩けない方は、手すりを頼るのではなく、歩行器などを使っていただくことになる。

もちろん、普段は何の役にも立っていないように見えても、いざ利用者さんがふらついた時にしっかりとつかまることができれば、それで充分に効果があると言えるかもしれない。しかし私はそのような光景を見たことはないし、話にも聞いたことはない。

最も有効な使われ方は、機能訓練ではないだろうか。つかまって立ち上がりや下肢の屈伸、片足を上げるなど、筋力やバランスの維持増強を図るのである。
しかし、これらの用途に使うには、手すりは壁に密着し過ぎており、壁に向かい合って位置した時に、上半身を手すりの向こう側へと乗り出させることができない。やはり機能訓練を目的とするなら、専用の器具を用意すべきだ。

また、手すりは上からの力に対しては頑丈に作られているものの、壁から垂直方向に働く力には弱いこともある。実際、私がかつて勤めていた施設では、頻繁に手すりが壊れた。
一番の原因が、まさに機能訓練である。立ち上がりの練習の時に壁から引っ張る力が働き、それがじわじわと壁を壊していくのだ。
まあ、その施設が安普請だったというのも大きな理由ではあるかもしれない。

もちろん、手すりなど施設から撤去すべきだ、とは私も思ってはいない。無駄だよなあ、と心の中で考えているだけである。かなりの設置費用がかかっているはずだから。

と言っておいて何なのだが、今のうちの施設でも、手すりはなかなか有効に使われていたりする。

物干竿として。

電波による転倒・転落の感知

「電波を用いた転倒・転落監視システム」の開発に成功
http://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2013/kr7a4300000cbrc1-att/130716_1.pdf

一部を以下に引用する。

電波を用いた「行動・状態識別センサ(アレーセンサ)」と、車のスピードや球速を計測するとき等に用いられている「ドップラーレーダ」を用いた転倒・転落監視システムの開発に成功しました。それらセンサにより、空間の電波の伝わり方の変化と、転倒・転落によるドップラーシフトをそれぞれ検出し、それらに基づき、センサなどを身につけること無く、人の転倒・転落を検出することができます。センサから直接見える場所での転倒を95%以上、物陰など直接は見えないところでの転倒も85%以上の確率で検出することに成功しました。

一読して最初に思ったのは、「転倒や転落してから分かっても遅いよ」ということであった。
もちろん、転んでしまった時には、それが即座に介護者に伝わった方が良いに決まってはいるが、実際には「転んだ時にすぐに分かったら良かったのに!」と悔やまれた経験は今までほとんどないと思う。少なくとも記憶にない。
それは、大抵の場合、転倒した時にはそれなりに大きな音がするものなので、少なくとも施設では(もちろん自宅では様々な状況があるだろうが)、すぐに気付くことが多いからだ。
転んだのに気付かず対処が遅れるという事態を防ぐよりも、それ以前の、転倒の前の段階に対策を講じることが求められているのである。

ただ、自宅の場合は、必ずしも近くに誰かがいるわけではないので、独居の高齢者などには心強いかもしれない。その場合には、感知範囲と価格との兼ね合いということになるだろう。
もっとも、そうなると危険なのは転倒や転落だけではないので、それらに特化したこの技術が普及するかというと、少々怪しいかなと思っている。

しかし、例えば。
転倒を感知するのが、体が床に付く前であったなら、感知した瞬間に床に配置したエアバッグ様のシートを膨らませ、衝撃を和らげるといった技術に、さらに発展させる余地はあるかもしれない。だがそこまで来るともうSFかな、という気もしないではないが。

Giraffを日本でも

昨日紹介したGiraffだが、日本でも同じような製品が作れないだろうか。
警備会社あたりが開発するといいのではないかと思う。私がSECOMかALSOKの社員ならすぐに起案書を作って提出するのだが、残念ながらそんな環境にはないのでここに書こう(笑)。

まず、基本的にはiPadにアプリを入れて、本体にセットするという仕様にする。そうすれば、モニター部分のハードウェアや通信系の開発費用を抑えられるだろう。
それに、昨日のサイトの動画では介護者がPCで操作しているが、iPadやiPhoneからも操作できれば、介護者がどこにいても使え、さらに便利だろう。またiOSにはFaceTimeというテレビ電話機能が標準装備されているので、これも利用しない手はない。

製品は、介護保険での購入やレンタルの適用にしてもらうことができれば、当然その方が良い。そして居宅介護支援事業所へ営業をかける。多くのケアマネは遠距離介護のケースを何人か抱えているものだ。

また、万が一使用されている方が家から出て行ってしまった、転倒したなどの緊急時には、警備会社が駆けつけるという契約を結ぶといいだろう。このために、警備会社に開発に乗り出して欲しいと思っているのだ。
ただ、こうすると逆に保険適用は難しくなってしまうかもしれないが……まあ保険適用でなくとも、緊急時のサービスも込みで価格を月1万5千円程度に抑えられれば、ニーズは充分過ぎるほどに存在している。

しかもそれは日本だけではない。認知症患者の増加は世界的な問題なのだから、この分野で日本企業が確固たる地位を確立できれば、スマートフォンで後塵を喫したことなど帳消しにできる。それだけ成長が期待できる分野ではないか。

ただ、警備会社では身体介護には対応できない。このロボットの使用中、急遽排泄介助など身体介護が必要になった場合には、介護事業所が対応する体制を確保しておくと良いだろう。普段から小規模多機能や定期巡回・随時対応型サービスを利用しておくと便利かもしれない。

さあ、このアイデア、どこか買いませんか?(笑)

Giraff

以前、「認知症ケアロボット」というエントリを書いた。そこで、オーストラリアの老人ホームで導入されたロボットを紹介したのだが、それとほとんど同じものを、スコットランドでは在宅の認知症の方が使用しているという。

Dementia Patients In Scotland Share Their Homes With Robots
http://www.medicalnewstoday.com/articles/263014.php

この記事には、Giraffというそのロボットの写真もないので、ネットで調べてみた。どうやらスウェーデン製らしく、製品サイトもある。
http://www.giraff.org/

giraffとは英語のgiraffeつまりキリンのことなのか、それとも別の言葉なのか……そもそもスウェーデン語では全く分からない。だが幸い英語のページもあった。
http://www.giraff.org/?lang=en

トップページにあるビデオを見ると、話されている内容は分からなくとも、その機能はお分かりいただけると思う。
これはスウェーデン国内ならば今すぐにでも手に入れられるようだ。しかし残念ながら価格は分からない。

スコットランドでは、主に離島などで導入が進められているらしい。日本と同じで、若者はそうした島々を出て都市へ出ており、過疎化が進んでいるということなのかな?

日本でも、こうしたロボットが導入されれば、遠距離介護の役に立つだろう。安否だけでなく服薬や摂食の状況も確認できるし、もちろん会話もできる。
iPadをセットして専用アプリを入れれば即利用可能とすれば、価格も開発費も抑えられるような気がする。5万円くらいでどこか出さないかな?

介護用ベッドや箪笥など施設の居室備品としては必要ない、という話

昨日のエントリで介護用ベッドについて触れたが、そもそもベッドというものは、全ての入居者さんにとって、多機能なものが望ましいとは限らない。今日はそのことを書く。

もちろん、離床が難しいほどに状態の悪化した方であれば、ベッドの機能は多いに越したことはない。ベッド上で過ごす長い時間を、少しでも快適なものにしてあげるために。

しかし、比較的お元気な方に高機能な介護用ベッドを使ってもらうと、ベッドがソファや座椅子の代わりになってしまいがちである。
角度が自分の好きなように変えられるのだから、それも無理はない。そしてその結果、ベッド上で過ごす時間が長くなってしまい、身体機能は保持されていて、実際に歩いて移動されているのに、褥瘡ができるなどということが起こってしまう。

施設でも、ベッドは介護用ではなく、一般家庭用の家具としてのベッドで良いのだ。そして介護用が必要になった方についてのみ、ご用意するのである。

また多くの施設では備え付けの家具として、衣類を収納する箪笥のようなものを用意しているところが多いが、これも間違っている。箪笥などは自宅で使っているものをそのまま持ってきてもらえばいいし、もしどうしてもそれが無理なら、ハンガーラックと衣装ケース、それに普段よく使う肌着や靴下などを入れておく籠で充分だ。
箪笥を用意する費用があるなら、机やソファを用意するべきだ。これらは、ご本人さんやご家族さんが自ら用意されることは少ないものであり、そして部屋にこうしたものがあったら、必ずしも「居室で過ごす時間=臥床している時間」とはならない。ベッドが居室の中での唯一の居場所になってしまうこともない。

ベッドから離れる時間も確保できずに、「生活リズムを作る」も何もない。介護施設の居室は、病院の療養室を参考にすることは即刻止め、生活の場所としての機能を見直すべきだと思っている。