指導とか検査とか

介護事業所を運営していると、行政から多くの指導・監査を受けることになる。
地域密着型特定施設入居者生活介護の指定を受けている介護付有料老人ホームである我が施設の場合、以下のようなものがある。

1. 市町村によるもの
・指定地域密着型サービス事業者に対する研修会
いわゆる集団指導。市の介護保険課が年に1回、市内の地域密着型サービス事業者を一か所に集めて行う。
指定基準の確認、前年度の実地指導での指摘事項のまとめ、制度改正や報酬改定についての説明などが行われる。

・実地指導
市の介護保険課職員が実際に施設を訪れ、施設内部を視察したり、書類によって指定基準や報酬の算定要件が満たされていることを確認する。うちの市の場合、基本は3年に1回。指定更新が6年ごとなので、1回おきに指定更新と同時に行われることになる。
著しい基準違反や悪質な不正請求等が発覚すれば監査に切り替えられる。

・営利法人監査
市の厚生課職員が5年に1度、営利法人による介護サービス事業所を訪れて行う。確認される内容は実地指導とほとんど同じ。

2. 都道府県によるもの
・指定特定施設入居者生活介護事業者に対する研修会
いわゆる集団指導。県の介護保険課が年に1回、都道府県内の特定施設入居者生活介護事業者を1か所に集めて行う。市によるものと内容はほとんど同じだが、防災や身体拘束廃止等についての特別講演が行われることも。

・実地指導
県の介護保険課職員が施設を訪れる。毎年、全ての事業所のうち3割を目安に行うとされている。うちの施設にはまだ来たことがないようだ。

・有料老人ホーム実地検査
県の高齢福祉課職員が施設を訪れる。介護保険の部分でなく有料老人ホームとしての部分をみるため、経営状態や入居者との契約内容などを確認される。

・情報公表制度
県が調査を委託した機関の職員が施設を訪れ、あらかじめインターネット上で事業者が公開している情報の通りかどうかを確認する。
これはあくまで、「自らが公開した情報は正しいか」をチェックするだけ。例えば、「マニュアルがある」という項目に「はい」とした場合、本当にマニュアルがあるかどうかは確認されるが、そのマニュアルが妥当なものか、それに基づいたケアが実際に行われているか等は問題とされない。つまり、体だけで全く身がない。

とまあ、こんな感じだ。まだ他にもあったかな?

ところで、今日のエントリで「市」というのは市町村、「県」というのは都道府県のこと。また組織名は最も一般的と思われる名称を使用している。
そのため、私が実際に住んでいるところのものとは異なっているので、一応お断りを。

給付費抑制はもはや不可避か

財務省の財政制度等審議会分科会が10/21に開かれ、そこで社会保障費を抑制する方策が示された。

http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia251021/01.pdf

中でも介護は、「制度創設10年余りで費用が2倍以上に伸びており、費用を抑制しなければ、長続きする制度とならない」と述べられている。
また特別養護老人ホームの莫大な内部留保についても、まずは経営実態を把握するために経営の透明性の向上・明確化を図る必要があるとされている。

内部留保については、以前にも書いたと思うが、その額だけで経営の健全さは測れないと私は思っている。つまり悪質な社会福祉法人は、不当に高額な役員報酬という形で利益を分配してしまっているだろうから。そのためにも経営の透明化は行うべきであろう。

費用の抑制は、私はそれ自体には賛成である。と言うよりも、もはやそうしないわけにはいかないのだろう。
しかし、誰もがサービスを使いにくくしたり、また自己負担を増やしてしまうのではなく、「本来必要のないサービス利用をなくし、その必要性に応じて負担額を決める」ことが必要ではないか。
現在の要介護認定ではそれが量れないため、要支援を一律に市町村事業に移行させるなどという方針が出されてしまう。そもそも要介護認定に際しては、どういうサービスが必要でどういうサービスが必要ではないのか、それをある程度示しておけばよいのだ。欧州の各国のように。

そもそも日本の医療・介護制度は、本人の意思に任せ過ぎだ。
例えば薬剤費だが、日本はジェネリック医薬品の普及も遅れている。平成24年10月31日の中央社会保険医療協議会薬価専門部会資料から引用する。

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ジェネリックが普及しないのには、患者の希望だけではなく、処方する医師の側にも原因があるだろう。もちろん、一概に悪いと言っているのではない。もしも先発薬と全く同じ効果が得られなければ、その責任は誰が負うのか、という問題もあるだろうから。

ジェネリックがあるのに、先発薬を希望する患者には、その分を自己負担としてもよいのではないかと思う。フランスがそうしているように。
またフランスでは、薬の内容によって自己負担割合が違う。代替制のない高額な医薬品は自己負担0%、すなわち全額が保険給付だが、有効性の低い薬剤は自己負担が60%、ビタミン剤などになると自己負担が100%だという。
確かに、風邪で処方された解熱鎮痛剤や抗生物質など、100%の自己負担でもいいのではないかと思う。

話は少しずれてしまったが、とにかく同じ費用を抑制するにしても、必要のないサービスを減らすという努力をまだまだすべきではないかと思うのだ。

特養をセーフティネットにするために

参院選が公示された。
各党とも、公約で介護職員の処遇改善を挙げているが、さて。

また、特別養護老人ホーム(特養)の増設を挙げている党もある。実のところ、私はその案にはあまり賛成できない。
現在の状態で特養の数を増やしても、本当に必要とする方がすぐに入所できるようになるとは思えないからだ。安価な有料老人ホームやお泊まりデイからの移動と、そして本来なら在宅生活を継続できる方が多量になだれ込んで来て終了、だろう。

「施設入所が必要な状態になったらすぐに入れる」という安心感は、施設の数を増やしたところで得られるものではない。
そして、まずこの安心感を確保することができれば、在宅でのサービスはいくらでも改善の余地がある。介護保険制度は、まずここから改革の手を付けるべきだ。

どうすればいいか。
私は、従来型特養は措置施設に戻されるべきだと思う。

従来型の、多床室を中心とする特養は、現在は「新型特養や有料老人ホームに入れない方が仕方なく選択する施設」になっている。好んで特養を希望される方は、いないとまでは言わないが少数だろう。
その理由は、個室でなく多床室だからとか、サービスがどうこうとかいう問題以前に、従来型特養は待機者が多過ぎるからである。金銭的に余裕のある人は、すぐに入れる新型特養や有料老人ホームを選択する。

これだけ待機者が多いと、従来型の特養は、経済的・社会的に困窮している方を救うためのセーフティネットたり得ない。ならばいっそ措置施設とし、行政あるいはその代理者が、客観的に必要性を判断し、入所を決めるようにすべきではないか。どうせ現在も、入所判定の基準は自治体から示されているのだ。それに厳密に従うことは、措置と大して変わらない。
ただし今の行政に措置業務を行う力はないだろうから、地域包括支援センターの業務とするのが適当か。ただしそれでは公正な運用ができない可能性もあると思うので、もっと良い方法があるかもしれない。

介護者さんたちが「本当にどうしようもなくなったら施設に入れてもらう。それまではできる限り在宅で頑張る」と思うことができれば、今よりも在宅で暮らせる人は増えるだろう。いざという時になってから動いても遅いと皆が分かっているからこそ、特養の申込者数はどこも3桁になってしまっているのだ。

どうにも在宅生活を続けられなくなったら、必ず特養に入ることができる。ただし、より快適で安全な環境を求めるという意味で施設入所を希望するのなら、費用は高くなるが、新型特養や有料老人ホームに入れば良い。
経済的に余裕のない方はそうもいかないが、それも仕方がない。それが高度成長期からずっと日本を支えてきた資本主義というものだ。要介護高齢者が増えてきたからと言って、いきなり福祉国家になることなどできるはずもない。消費税を10%に上げるだけで大騒ぎだというのに。

とにかく、何よりも真っ先に制度が保証しなければならないのは、「安心」である。その上で、あとは福祉をどの程度充実させ、そのためには国民の負担をどの程度まで上げなければならないのかは、国民全体で議論して決めれば良い。

ついでに言えば、私は介護老人保健施設(老健)も廃止しても良いと思っている。
本来の役割を果たしている老健は、全くないとは言わないまでも非常に少ない。老健が在宅復帰を支援できない理由は、エントリ「老健は在宅復帰を支援できない」で書いたとおりである。今はむしろ、逆に在宅生活に戻れない方をどんどん増やしている。
もちろん、廃止後は、既存の老健は特養や特定施設(介護付有料老人ホーム)などに転換する。あるいは、リハビリ機能を今よりも遥かに強化した、利用期間に制限のあるリハビリ施設というのもいいかもしれない。

要支援の方を介護給付から外す前に、やるべきことがあるのではないかと思うのだ。

介護従事者の給与額と特養の内部留保

第7回社会保障審議会介護給付費分科会介護事業経営調査委員会資料(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000032jrz.html

ここで、職種別の介護従事者の平均給与額が示されている。
平均給与額とは、基本給に各種手当、一時金を月割したものが含まれたものだという。

さて、月給の者の平均給与額と基本給額(カッコ内)をみてみよう。

介護職員:275,700円 (175,830円)
生活相談員・支援相談員:318,660円 (208,570円)
介護支援専門員334,260円 (216,020円)

基本給だけを見れば、まあこんなところかなという感じだ。しかし平均給与額は高すぎるように見える。月当たり10万~12万円弱も、資格手当や時間外手当、それに賞与の月割分があるとは正直信じられない。
厚生労働省が集計で架空のデータを加えているのか、介護職員処遇改善加算を算定している事業所の多くが、加算分を職員に正しく支給していることを示すために嘘を書いたかのどちらかだろうとしか思えない。

まあ、そうは言ってもこのくらい支給している事業所がないわけではない。現に私が支援相談員をしていた頃には、まさにこの平均額ぐらいだったし、施設ケアマネもこのぐらいだった。その後私は転職し、見事に給与額は減ったのだが、そのことは悲しくなるので書かないことにしよう……

いずれにしろ、厚生労働省としてはこの数字は多い方がありがたいであろうことは確かだ。処遇改善は充分に行われているとみなすことができるだろうから。

また、特養の内部留保についての報告もなされているが、読んでみたものの、結局どうなのかよくわからなかった。この問題については、以前にも書いたと思うが、内部留保よりも役員報酬を調査した方がいいのではないかと思う。
悪質な経営者は、法人として溜め込むよりも自分たちの報酬をがっちりとっていることだろう。私が属していた法人のように。

いずれにしろ、こうした調査から介護報酬や制度改正が行われてしまうわけだ。

介護予防サービスの効果

今日の社会保障審議会介護保険部会では、要支援者への介護給付を見直すという案について、意見が集中したという。

「まず、介護予防の影響を示すデータを」-介護保険部会
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/39882.html

この問題が、費用対効果で論じられなければならないのは当然だ。介護給付から外すことでサービスが受けられなくなり、全体として要介護が増悪、それにより却って費用がかかるようになるのでは意味がない。
上記の記事では、とある委員が、「生協が2011年に独自に行った調査で、介護予防が利用者の機能維持につながっていることが示されている」と述べたとある。その調査について調べてみた。
それらしいのはこれか。

生協の「予防訪問介護サービスの実態に関する調査」を実施~サービス利用者の90%、心身状態が維持・改善したと回答~
http://jccu.coop/info/pressrelease/2011/11/-90.html

これはただのアンケートである。まさかこの結果をもって、介護予防に効果があると主張しているのだろうか?

当たり前だが、サービス事業所が行ったアンケートの結果に客観性などない。解答は利用者や家族の主観であり、しかも普段世話になっている事業所が行うアンケートなど、「おかげさまで前よりも元気になりました」と答えるに決まっているではないか。「機嫌を損ねたら自分たちが不利益を被るかもしれない」という心配だってゼロではないだろう。
しかも一見した限りでは、状態の変化を問うている期間も定かではないし、また利用者の年齢でさえ分けられていない。

しかし。
ゴールデンウイーク中の報道では、「介護予防サービスは保険給付から市町村の独自事業に切り替えていく」という方針だったはずだ。となると、「とにかく財源がないので軽介護者は切らせていただく。市町村はこれまで以上の予防効果のあるサービスを創出せよ」という極めて無責任なやり方もあり得るのかもしれない。
ただ、それではあまりに目先のことしか見えていない。

多くの委員が求めたというデータは、果たして示されるのだろうか。