転倒を100%防ぐことはできない

私が最初に勤めた老健では、利用者さんが入所された際に、施設長医師がご家族さんに面談して「転倒や転落を100%防ぐことはできません」と言っていた。
「24時間ずっと職員が傍らに付いていることはできない以上、どれだけ対策を講じても、それは起こり得ます。そのことはご理解ください」と。

もちろん、これは万一の事故が起きた際の免罪符にはならない。いくらご家族さんに説明して同意をいただいても、施設の過失で事故が起きれば、当然に責任は生じる。
過失があったとみなされるかどうかは、事故が起こることが予見できたか、そして事故を回避するために充分な対策を取っていたかによって決まる。転倒することが予見できたはずなのに、予防策を取っていなかったのは過失である、というように。

免罪符にならないのに、施設は何のためにこれを家族に伝えるのか。あくまで私個人の意見だが、以下のような理由があると考える。

1. 利用契約の可否を問う
もし「それでは困ります。絶対に転ばないようにしてください」と言われるとすれば、それは即ち現在施設が提供しているサービスでは満足できないということなので、サービス利用のための契約が成立しない。

2. ご家族さんの意向を確認する
転倒はしないに越したことはないが、予防策はデメリットも伴うので、心身の自由とリスク管理のバランスをどの辺で取るのかをはっきりさせておくことが望ましい。
ご本人さん・ご家族さんには、転倒の危険性を承知の上で、より干渉されることの少ない生活を選ぶ権利があると思う。全ての方に、考え得るベストな転倒防止策を強いることが良いことだとは思わない。

3. ご家族さんの理解度を量る
こちらの説明についての反応から、ご家族さんがサービスを提供するにあたっての職員体制や他の利用者の状況など、どの程度理解されているのかを推し量る。

だが、これは言われる側にしてみたら、「転ぶこともあると思いますが、それはしょうがないことなので諦めてくださいね」と言われているかのように感じてしまうかもしれない。もちろん、施設側にはそのような意図は全くないのだが、これがなかなか難しいところである。
ただ、転倒に対して、ご家族さんが「絶対に転ばないようにしてください」と希望し、転倒事故が即訴訟に繋がるようであれば、施設としては転倒リスクの高い方、認知症状の強い方は受け入れないようにしよう、という方向に行かざるを得なくなっていくだろう。それによって損をするのは、明日の要介護高齢者である。

それを考えて転倒事故があっても利用者さん・ご家族さんは泣き寝入りすべき、と言いたいわけではない。施設に過失があれば、償われるのは当然である。

しかし、転倒させないで欲しいと思っているのは誰だろう?
ご本人さんは本当にそれを望んでいるのだろうか?

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