アベノミクスと福祉

人類の歴史では、政策としての経済の活性化と福祉の充実は相反してきた。代表的な例は、英米のサッチャー、レーガン政権であろう。

経済学では、充実した福祉は勤労意欲を低下させるという見方が根強い。雇用保険や生活保護があれば、働かずともそれなりの生活ができるからである。
それよりも公共事業を増やした方が、雇用を増やすことで失業者を減らすことができ、経済は活性化する。これはケインズのマクロ経済学からの流れであるようだ。

とまあ、これは実のところ一昨日のエントリで紹介した『安心の社会保障改革 ―福祉思想史と経済学で考える』からの受け売りなのだが。

で、アベノミクスである。
これも、ケインズ理論の延長線上にあるとみてよさそうだ。

今のところうまくいっているようで、株価は上がり円安が進んでいるが……これは安部さんが実際に何かをした結果と言うよりも、市場が勝手に期待感を高めただけのように経済素人の私には思える。だから、簡単に弾けてしまう可能性も低くはないような気がしている。
投資信託も、ここで売って利益を確定させた方がいいのかなと悩んでいたりするわけだが、それは余談。

インフレは、個人的には歓迎すべきなのだろう。何しろ我が家は住宅ローンという多額の借金をしている。インフレとなれば、額は変わらなくとも、実際の負担は減る。まあそれには給料もその分上がらなければ意味がないが。
そして逆に、現在多額の貯蓄をしている者にすれば、インフレは痛手となるだろう。現在預けているお金の価値が下がるのだから。

現在最もお金を溜め込んでいるのは高齢者である。つまりインフレは間接的に、ゆとりのある高齢者から預貯金を奪うことになりそうだ。
「奪う」と言うと言葉が悪いが、ただでさえ日本は多額の負債を抱えている。若い世代への負担の先送りは少しでも減らしておくべきだと思えば、致し方ないことかもしれない。

何故なら、財政への不安感こそが、国民の社会保障への信頼を低くしていると思うからだ。
実際、厚生年金に加入している我々はともかく、国民年金だけの自営業者等であれば、年金保険料を納付する気にならないのも無理なからぬことと思える。(納付しないことを推奨しているわけではない。念のため。)
この点が改善されれば、国民による国への信頼が作られていき、国民は消費税のさらなる増税も是とし、北欧のような高福祉高負担を受け入れられるようになっていくかもしれない。

そのためには、国民の資産をある程度再分配する、つまり格差をなくす必要がある。
現在の国民の多くは、「結局は政治家や公務員だけがうまい汁を吸っている」という思い込みがあり、これが増税への抵抗感となっている。「何に使われるのか信用できない」「その前に政治家や公務員の給料を下げるなど、やるべきことがある」というわけだ。

介護の業界は、何しろ報酬が法令で定められているので、景気が上向きだからと言って一般企業のように収入は増えず、給与も急には上げられない。インフレが進めば、一時的にせよ苦しい思いを強いられることになりそうだ。

インフレについては概ね歓迎したいものの、これが懸念材料だったりするのである。

コメントを残す