【書評】橘木俊詔 『安心の社会保障改革 福祉思想史と経済学で考える』

先日、初めて電子書籍を購入した。
無料のものはいくつか入手したことがあるのだが、お金を払ったのは初めてである。
スタートして間もなく、まだ品数が揃っていないAppleのiBooksで唯一と言っていい福祉関係の書籍を、Appleと出版社へのご祝儀気分で買ってみたのだ。結論から言うと、良い買い物だった。

著者は経済学者であり、年金、医療、雇用、生活保護といった社会保障の歴史を、イギリス、ドイツ、スウェーデン、デンマーク、アメリカ、そして日本の各国について主に経済学の観点からまとめている。これが実に分かりやすくて良かった。
そして最後に、日本の社会保障制度をどう変えていくべきか、著者の意見が述べられている。

社会保障制度はそれぞれの国で歴史的な経緯を持っており、それを経た上で今があるというのは、言われてみればその通りである。とすれば、ある制度が他国でうまくいっているからといって、それのみを輸入したところで、福祉が良くなるという単純なものではないのかもしれない。

しかしサブタイトルにある「福祉思想史」には、少々違和感を覚えた。
経済学者の社会保障に対する考えを「福祉思想」と呼ぶのは間違ってはいないだろうが、彼らは福祉を深く研究していたわけではない。世の中には福祉を専門に研究・活動している者もおり、それも今後の社会保障を考えていく上では無視できない。さらには民族・文化も合わせて考えていかなければならないのではないか。

この本では、介護について特に取り上げてはいない。しかし社会保障の中で今後さらに大きな位置を占めていくことになるのは確実であるし、そもそも私の主な興味もそこにあるので、以下介護について述べる。

ご存知のように、日本の介護保険制度は他国を参考に作られている。要介護量を測定し区分して給付の上限を定めるのはドイツの介護保険制度、ケアマネジメントはイギリスのコミュニティ・ケア法というように。
しかし、介護保険制度創設以前の第二次大戦後から、ドイツでは自由主義経済の中にありながらも政府の役割を重視しており、市場経済と福祉、つまり資本主義と社会主義の折衷を図っていた。
コミュニティ・ケア法以前から、イギリスではソーシャルワークが醸成していた。

日本の介護保険制度は失敗している。
サービスを生み出すことはできたが、問題も多く、何より国民に安心感を与えていない。「介護が必要になっても、日本には介護保険制度があるから安心だ」と考えている日本国民が果たしてどのくらいいるだろう?

日本は介護保険制度の成立まで家族に介護を担わせていたのに、ドイツの制度を真似ることで、国の干渉の度合いを一気に上げてしまった。そして多くの施設を含む事業所をオープンさせ、「サービスを使うのは当然の権利ですし、ご本人さんのためにもなります」とばかりにサービスをどんどん使わせた。
この結果、本来のニーズ以上のサービス利用を生み出し、本当に必要な方には却って利用しにくくなった。手のかからない方を望む施設は、本来施設入所の必要がない方をむしろ好んで多く入所させ、多くの待機者を作り出している。これに個室化の推進が輪をかけた。高いホテルコストを支払える方であればニーズなど度外視で、特別養護老人ホームのユニット個室が埋められていった。

また、国は干渉の仕方も間違えている。本当は介護サービス事業所の裁量をもっと認め、自由にやらせ、市場の中で競争させるべきだった。
人員や設備の基準などさほど細かく定めずとも良かったのだ。自由主義経済の中で競争が生まれれば、人員や設備の劣悪なところなど自然に淘汰されるのだから。そもそも人員や設備の基準、そして算定のための要件は、ある程度サービスの内容を保証するが、質は全く保証しない。内容でなく質を保証するための要件こそを、国は定めておくべきだったのである。いかに自立を支援しているか、利用者の心身の機能を維持改善しているか、そして生活の質を向上させているか。それを保障するための要件を。

イギリスを真似てケアマネジメントを導入するために、そのためだけの専門職を多量に世に送り出してしまったことも失敗である。ソーシャルワークの下地が全く充分でなかったのに。
現在、ケアマネは、特に福祉系の基礎資格を持つ者が、医療系サービスの導入が苦手であるというただそれだけの理由で批判を受けている。逆に医療系の基礎資格を持つ者に、適切な自立支援や生活の質の向上が図れているかという視点は持たれてさえいない。そして、さらに本来の役割であるソーシャルワークについても同様である。

そして国は、一旦は家族や地域から開放しようとした介護を、地域包括ケアという形で再び家族や地域に戻そうとしている。思うように進まないのも当然であろう。

……とまあ、書評と呼ぶ割には、本の内容から離れた私の考えまで述べてしまったが、いずれにしろ、各国の社会保障制度の流れを概観するためには格好の書なのは確か。
ということで、以下にamazonとiTunes Storeの本もしくは電子書籍へのリンクを貼っておくので、興味のある方はぜひ一度手に取ってもらえればと思う。

(評価:★★★★☆)

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