虐待に至る病

何度か書いているが、このブログでは個々の事件について固有名詞を出して糾弾することはしない。自らが直接取材したわけでもなく、報道された情報のみによって実際の事件に対してジャーナリストや評論家紛いのことをブログに書くのは、勘違いも甚だしいと感じているからだ。

昨今、様々な形での虐待事件の報道が少なくない。
他人の心身に苦痛を与える行為が善か悪かと問われれば、全ての人が悪と答えるだろう。にもかかわらず、虐待を行ってしまうのは何故なのか。

虐待を行う者は、大きく分けて2つのタイプに分かれると思う。1つは、カッとなって自制心を失うタイプ。こちらは思わず手を上げてしまうというように、直接の暴力の形をとって現れることが多いだろう。
そしてもう1つは、自身を合理化している(防衛機制の一つであり、正当化とも言う)タイプだ。こちらは、例えばスポーツの指導者のように身体的接触が不自然でない場合を除けば、直接の暴力よりも、例えば食事を食べさせなかったり、残酷な言葉を投げかけたりといった間接的な暴力を行う。

前者は、虐待している本人にも自覚が芽生えやすい。そこで反省したり、あるいは後者の合理化へと移行することもある。
合理化は、虐待することに対する良心の咎めを覆い隠してしまう。「自分の行っていることはしつけ(そして指導や管理など)であり、正しいことだ」と考えるわけだ。
実際、児童虐待や生徒虐待は、加害者自身はしつけや指導だと主張することが多いようだ。中には単なる口実に過ぎず、本当は単なる暴力であることを自覚しているケースもあるだろうが、本心からそう思い込んでいたケースも少なくないのではないか。

ひとたび自分の中で「厳しい態度で臨むのもやむを得ない」という合理化が成立すると、人は己の行為を客観的に眺めることを止めてしまう。その結果、虐待はエスカレートしていく。

どういう人がこうした過程を辿るのか。
彼らに共通するのは、強固なマイルールである。そのルールに照らし、「自分は正しい」→「対立する者は間違っている」→「何を言っても、何をしても構わない」というロジックが形作られる。
中には、そのマイルールを場のルールとすり替えて正当性を主張する者もいるが、完全に閉鎖された空間ならともかく、多かれ少なかれ不特定多数の目や耳に晒されている場所であれば、その場のルールなど何の言い訳にもならないという当然のことが分からない。

そして、そういう者は己の行為の過ちに気づかず、むしろ正しいことであると思いこんでいるために、口にする言葉だけは実に立派なものだったりする。自己陶酔と呼べるほどに。

保護者や指導者は児童や生徒に対して責任を負っているため、こうした合理化が成立しやすいが、福祉においても似た面があるのが現状だ。
本来、しつけや指導と自立支援は全く異なるのだが、認知症などのため自己決定が困難な方に対しては、介護者や職員は「口で言っても分からないのだから、望ましい行動をとるように仕向けなければならない」と無意識に感じてしまいがちである。
また、同僚や部下へのパワーハラスメントとして現れることもある。

実際、介護従事者すなわち直接ないし間接の援助者であっても、こうした傾向を持っている者はいる。一番分かりやすいのは、公衆の面前(ネット上も含む)で他人を罵る者だ。

その者に、他人を罵るのが善か悪かと問えば悪と答えるだろう。しかし同時に己を正当化する言葉も発するだろう。
そもそも他人を罵ることができるのは、相手の気持ちや周囲の目よりも自分の決めたルールが優先されるからである。そんな者が援助者として他人の痛みを分かち合えるだろうか?
援助業務とそれ以外とで、きっぱりと態度を使い分ければ良い、という考え方もあるかもしれない。それは誰にとっても絶対に不可能であるとは断言できない。しかし私は無理だと思う。
例え仕事の場では意識して己を統制しているつもりでも、普段の言動は、絶対に影を落としてしまうものだ。

かく言う私も特定の人たちのことをこのブログで「バカ」と罵ったことがある。その箇所を削除するのは簡単だが、自戒のために残してある。
そう、私だってそういう一面を持っているのだ。
それを忘れないために。

プロフェッショナルとしての自分の理念は大切である。しかし、周囲の声、とりわけ自分と相対する人の声に耳を傾け、受け容れることができなければ、人は己を正当化し、他人の痛みが分からなくなっていく。
たとえどれほど美しい言葉を口にしていても、一方で他人を貶める言葉を吐く者は、直接ないし間接の援助者となったり、人の上に立つ資格はない。利用者への虐待や部下へのパワーハラスメントに走る前に自覚した方が良いだろう。

徳の高さは、人が何か特別に頑張った時に判断すべきではない。日頃の行いで判断すべきである。
――ブレーズ・パスカル(1623-1662)

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