体位交換とポジショニング

体交、と言って何のことかわからない介護従事者はいないだろう。体位交換の略であり、要は要介護者がベッドに横になっているときに、体の向きを変える、つまり寝返りを打つ介助をすることだ。
一番の目的は、褥瘡すなわち床ずれの予防や改善。体の特定の部位に体圧がかかる状態が長く続くと、その部分の血行が悪くなり、皮膚組織が壊死してしまうので、それを避けようというわけだ。

そして、ポジショニングという言葉がある。これは、クッション等を用いて要介護者の姿勢を整えることを言う。こちらの目的は、筋緊張を緩和させることで要介護者が苦痛を感じないようにすることと、そして拘縮の予防である。

介護施設では、体位交換はどこも普通に行っている。しかしポジショニングはというと、私が最初に努めた老健では、理学療法士や作業療法士がいたにもかかわらずほとんど取り組みがなされていなかった。
そのため私もほとんど知識を得られなかった。本を読んだり勉強していく過程で、臥位姿勢で筋緊張があると拘縮が進んでしまう、という事実を聞き知っていたのみである。もっとも、老健を出てからは、要介護度が低めの方と接することが多かったので、拘縮があまり身近な問題でなくなっていたこともあったが。

しかし、うちの施設でもこのところ入居者さんの重度化が進んでいて、拘縮がみられる方がちらほらと現れている。その対応としては、たまたま利用が始まった訪問マッサージを頼ったり、介護職員が機能訓練の一環として見よう見まねで行う関節可動域訓練ぐらいしか思いつきもしなかったのだが、最近うちの看護師が施設で勉強会を始めよう、まずは体位交換とポジショニングから、ということを言い出した。

願ってもないことだ。
言われてみれば、体幹を捩じらないようにすること、ベッド表面から浮いているところをクッションなどで支えることくらいは、自力で寝返りを打てない方全員にケアマネとして一度は検討してみるべきだったと思う。

この勉強会が、職員の基礎知識の向上につながるといいのだが。

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試験の成績と資質

介護福祉士国家試験のことはもう書かないつもりだったのだが、ここ最近のエントリを読み返してみて、付け加えておこうと思ったので書く。
というのも、自己採点で109点とか、自慢げな感じに見えるかもしれないと思ったので。

まず、私は介護福祉士資格は介護職員としての資質をほとんど保証しない、実務上は意味がないものだと思っている。意味があるのは制度上だけだ。
これは、国家試験の難易度が低いことも大きな原因だろうが、では国家試験の難易度を上げ、合格率を一桁、ボーダーラインを100点以上にすれば問題は解決するのかというと、そんなわけはない。確かに介護福祉士資格所有者の知識レベルは上がるだろうが、現場のサービスの質がそれに合わせて上がるわけではない。
それどころか逆に、試験の苦手な人の向上心を奪ってしまい、サービスの質を下げることになりかねない。

このブログで何度か書いているが、私の介護職員としての資質は低い。その事実を前にして、介護の仕事を続けていこうと思えば、知識を増やしていくしかない。そうして10年近くも働いてきて、しかも社会福祉士と介護支援専門員の資格も取得している。
そんな自分としては、あの試験内容であれば9割は取らないと話にならないと思っているが、それは自分という個人を考慮してのことであって、受験者全員に当てはまるわけではないのはもちろんだ。決して、合格点に達しない人全員をバカだとか、やる気がないとかみなしているわけではない。

介護職員として働いていれば、普通に身につく知識だけで合格点に達する可能性が高いとは思うが、普段の業務では必要のない、単なる知識のための知識も多い。それに問題文を理解すること自体にも得意な人と不得意な人がいるし、考え過ぎて混乱してしまう人もいる。そして受験勉強に割ける時間も環境も、全受験者が同じというわけではない。
そんな中で、得点を他人と比較しても仕方がない。

介護福祉士資格の取得を目標として仕事に励み、資格に誇りを持って働いていくことは素晴らしいことだ。そうした人に、そんな資格は意味がないなどと言うことは誰にも許されない。
そして同時に、取得できない者皆が介護職員としての能力に欠けるということでもない。はっきり言ってしまうが、知識などというものは大抵、天賦の才能の欠如を補う意味しかないのである。援助技術など全く学んでいなくとも、想像力と創造力を駆使して適切な援助ができる者は確かにいる。

繰り返すが、ペーパーテストはペーパーテスト。介護職員としての適性や能力、その人個人のいわゆる「頭の良し悪し」とイコールではない。
だから私が自己採点の結果を書いているからと言って、介護職員としての適性や能力が高いとか、頭がいいとか言いたいわけでは決してない。

私はそういうことでしか他人と張り合えないのだ。このくらいの点を取れるだけの知識によって、ようやく周囲と肩を並べられる。

私が介護従事者に対して「こいつはバカだ」と思うのは、試験に落ちたとか、何点しか取れなかったとか聞いた時ではない。
利用者さんのことを考えずに、自分が楽をすることしか考えていないと感じた時だけだ。

そういう人に対しては容赦するつもりはない。

頻尿と水分摂取

さて、介護福祉士試験も終わったことだし、PCも買い換え後の大きな作業は終わったしということで、このブログ本来の記事に戻していこうと思う。

うちの施設の入居者さんの話。
その方は頻尿があり、特に夜間は短いと45分、長くても2時間の間隔でトイレに行かれる。ズボンの上げ下ろしがうまくできず、また移動の際の転倒のリスクも高く、実際過去には転倒されたこともあるが、職員の介助は好まず呼んでくださることはない。認知症のため理解できないのではなく、嫌なのである。そのためやむなくセンサーマットを設置させていただいているが、センサーマットが感知して訪室し、見守りや介助を行う分には、特に嫌そうなそぶりはない。

そのフロアの夜勤職員の手間としては今のところ大したことはないが、それだけの頻尿は明らかに異常ではあるので、ご本人さんにとってこのままで良いとは思えない。
以前に主治医から頻尿の薬が処方され、一時期はトイレの回数が減っていたが(それでも一晩に3回は行っていた)、再び増えてきた。

その方は夜間、トイレの際に必ず水を飲まれている。それがトイレの回数をさらに増やしているのは確かだと思うが、高齢者に水分摂取を控えさせるのは気が引けるものだ。医師からの指示があるわけでもないのに。
しかも、最近尿の匂いが強いように思える。膀胱炎を起こしているかもしれず、となれば排菌のためにも水分は摂るべきか。
次回の受診では改めて相談してもらった方がよさそうだ。

それはそれとして。
我々としてもできることがあるのなら試みてみないと。
夜間のトイレ時、水を飲まれる際に、「喉が乾くならうがいだけにしませんか? 水を飲むとすぐまたトイレに来たくなりますよ」と言ってみたが、そんな言葉に耳を貸してくださる方ではない。
そこで先日、心苦しくはあるが、洗面台のコップを試しにこっそり隠してみた。その方は「あれ?」という感じキョロキョロしたものの、すぐにベッドに戻られた。そしてその結果、12時までは50分に1度トイレに起きたものの、その後は朝までの間に1回行っただけであった。

なるほど、日付が変わるまでは夕食時に摂った水分が、少しずつ尿に変わって出続けるものの、その後は水分を摂らなけれは尿の生成もなくなるらしい。しかしたぶん大きな問題はそこではない。
その方の食事は、毎食ほぼ食パン1枚分弱と汁物、お茶、それに牛乳のみである。おかずにはほぼ手を付けない。職員の促しにはお怒りになる。と言っても、皆怒られることがわかっているので、私以外の職員がもっと食べるように促しているところなど見たことがないが。
以前、脱水で入院したことがあり、以後は水分は取れているものの、その分食べる量が減るのではよろしくない。
そこで、やむなくご家族さんにお願いし、栄養を補うためにメイバランスを購入してもらった。しかしこれも情けない話だが、うちの職員にはその時々の食事摂取量をみてメイバランスで臨機応変に補うことはできないので、いつの間にか昼食にお付けするという暗黙のルールができたらしい。しかしこれでは全然足りていないだろう。

たぶん、だが。
食事の量が少ないと、飲んだ水分の体への吸収も早いのではないか。普通は胃で食べ物と飲み物が混ざり、腸まで降りて行ってそこでゆっくり吸収されるのが、食べ物が胃に入らなければ、すぐに吸収されてしまうと。
つまり、普通の方では夜間眠っている間にゆっくりと体に吸収される水分が、夕食後に速やかに体に吸収されてしまい、すぐに尿が溜まってしまう。その結果、夕食後に頻尿となる。
そもそも飲水量が多ければ胃液は薄められるし、お腹もいっぱいになる。食欲が落ちて当然だ。

頻尿や不眠に対して薬を処方してもらうだけでは、きっと対症療法でしかないのだろうな。

義歯の取り扱い

私が今回の介護福祉士国家試験で、一番悩んだ問題はこれだろう。

問題44 義歯の取り扱いに関する次の記述のうち、適切なものを1つ選びなさい。
1 食事のとき以外はつけない。
2 磨くときは、歯磨き粉を使わない。
3 熱湯で洗浄する。
4 総義歯は、上あごから外す。
5 外した義歯は、よく乾燥させておく。

どうだろうか。皆さんは即答されただろうか。

私がまず「これが正解では?」と思ったのは2。歯磨き粉をつけて磨けば義歯が摩耗するし、細かな傷が付いてそこに細菌が繁殖しやすくなると以前に聞いたことがあったからだ。
しかし一方で、市販されている普通の歯磨き粉は、タバコのヤニ取りを謳った商品などごく一部を除けば、さほどの研磨剤は入っておらず、削ったり傷を付けているのはむしろ磨き方のせいだと聞いたこともあった(試験後にググってみたら、確かにそう言われている歯科医の方がおられる)。
とすれば、歯磨き粉を使った方が汚れを落としやすくなって、良いのではないか?

その他の選択肢だが、1、3、5は明らかに違う。だが4は?
私はこの仕事を始めて間もない頃に、先輩から「義歯は外す時は上から、はめる時は下から」と教わった。理由は、下の義歯を先に外したり上の義歯を先にはめると、上の義歯が外れて落ちる危険があるから、とのことだった。

しかしやがて、「外す時は下から、はめる時は上からにすべき」と言う人に会った。いわゆる「脱健着患」と同じで、上顎は動かない(動かそうと思えば頭部ごとになる)が下顎は単独で動くのだから、外す時は動く方を先にすべきではないかというのがその理由。これは、聞いた直後は説得力があるように思えた。
しかしよく考えてみると、上から外そうが下から外そうが、口を開けてもらうのに変わりはない。下の入れ歯を外すのに、口を開けるだけではなく下顎を前後させたり捩じったりする必要があるのならともかく、普通は単に開いてもらうだけだ。とすれば、「脱健着患」と同じというのはこじつけでしかない。

ちなみに私が実際の介助場面で、義歯を外す時に上と下どちらを先にしているのかというと、ほとんどの方は上から外している。
その理由はこうだ。

下の義歯は全体として細長く、その分上の義歯よりも割れやすいように思えるので、どこか一点に力をかけたくない。その結果人差し指を口の中に入れて大きく曲げ、人差し指と親指でつまんで持ち上げて外すこともあるのだが、もし下の入れ歯から先に外すとなると、上の入れ歯がはまったままで曲げた指の分だけ口を大きく開けていただかなければならなくなる。
上を先に外す場合はどうか。上の義歯は、人差し指を差し込んで指先をテコにして親指の先を前歯のあたりにひっかければ、確実かつ簡単に外せる。これなら、口は指一本分だけ開けてもらえば良いし、こうして上を外して、指を曲げる分の空間を作っておいてから下の義歯を外した方が、結局口を大きく開けさせずに済むのだ。

こんなことを考えて、2と4のどちらを正しいとすべきか迷った。
2についてはどうも疑わしく思えるし、といって4はもっと疑わしい。
悩みに悩んだ挙句、私は4にした。最初の職場で先輩に教わったことに賭けたわけだ。

大原の解答速報によると、正解は2。
ああ、そうだったのね……

2の「磨くときは、歯磨き粉を使わない」が正しいということは、「磨くときに歯磨き粉を使うのは間違っている」ということだろう。
一方、4の「総義歯は、上あごから外す」が間違っているということは、それは「上あごからでも下あごからでもどちらでもいい」のか、それとも「下あごから外す」のか、どちらが正しいのだろうか。

まだ悩んでいる……


2013.01.29追記:
一晩経ってみて、ああ、これは単純に「上の義歯の方が大きいから、下を外した後の方が外しやすい」ということではないかと思い当った。
そうか、それだけのことか。

何だったんだろう、このエントリ。

試験当日

第25回介護福祉士国家試験を受験した。

やってみての手応えはというと、自信を持って答えられたのが8割、たぶん合ってるんじゃないかと思えたのが1割、全く分からなかったのが1割。
正答率が9割に達していれば個人的にもまあ及第点か。9割というと108点。微妙なところかもしれないなー、と思った。

それにしても難しい問題は難しい。ハヴィガーストの発達課題について、中身を細かく覚えている受験者がどれだけいるというのだろうか。せめてエリクソンにしといてくれ……
あまり難し過ぎる問題は、その分得点が実力でなく運に加算されることが多くなるので好ましくないと思う。と負け惜しみを言っておこう。

とりあえず「介護福祉士国家試験 解答速報」でググってみて一番上に出た大原のサイトにある解答速報がこれ。

午前:http://www.o-hara.ac.jp/sokuhou/kaigofukushi/kaito_am.pdfリンク切れました。
午後:http://www.o-hara.ac.jp/sokuhou/kaigofukushi/kaito_pm.pdfリンク切れました。

で、これを元に自己採点した結果はというと……109点だった。
9割はいったが……どうせなら110点台に乗せたかった。ケアレスミスがいくつかあったのが痛いが、自信がなかったものの正解していた、という問題もあったので、こんなところか。

試験の合格点には充分に達していると思う。しかし、だからこそこれでいいのかと思ってしまう。
介護の仕事に知識が必要なのはもちろんだ。だが、決してそれだけではない。ペーパーテストが得意なだけで、介護職員としてはせいぜい中の下くらいの私なんぞが簡単に取れてしまう資格に意味があるのだろうか。私としては、介護技術講習と試験にかかる費用を支払って、つまり資格を金で買ったくらいの意味しかない。
と言っても介護技術講習の費用は会社持ちだったのだが……感謝はしているが、この資格によって会社に還元できるものが何かあるのかというと……なさそうだな。特定施設にはサービス提供体制強化加算はないし。

これはこれで悪くはない。だが、これでは介護福祉資格が介護職員を評価する唯一の尺度であってはならないと改めて思った一日だった。