不穏

「不穏」という言葉がある。
医療・介護の現場でよく使われている言葉であるが、広辞苑第五版にも

おだやかでないこと。険悪。『―な空気』

とあるので、専門用語というわけではないだろう。ただ、一般に使われる場合には、ひとりの人の状態を表すのではなく、複数の人たちの間の感情や雰囲気を表すことが多いようだ。

どうも私はこの言葉が嫌いである。自分ではまず使わないし、ケアプラン原案やご家族さんへの報告書など、私の責任において作成されている文書に他の職員がこの言葉を使っているのを見つけると、必ず別の言葉に置き換えてしまう。

理由は、「不穏」という言葉の持つ曖昧さにある。
大声を出しているのか。
ブツブツと呟いているのか。
うろうろと歩き回っているのか。
伝わるのは、「穏やかではなかった」ということだけだ。

こうした様々な状態を一括りにして「不穏」と呼ぶことは、介護が行うべき個別化とは逆の思考プロセスによって行われる。
類型化は医療に任せておけばよい。我々はあくまで疾患ではなく、個人を見る。「不穏」などという一言で片付けるのではなく、その言動を詳しく描写し、原因や対応を考えなければならない。

ところで、似たような(?)言葉に「せん妄」というものがある。
これもやはり広辞苑第五版に

錯覚や幻覚が多く、軽度の意識障害を伴う状態。アルコールやモルヒネの中毒、脳の疾患、高熱状態、全身衰弱、老齢などに見られる。せんぼう。

とあるものの、内容からみて医学用語と言っても良いだろう。

「病院の言葉」を分かりやすくする提案の「せん妄」の項にはこうある。

病気や入院による環境の変化などで脳がうまく働かなくなり,興奮して,話す言葉やふるまいに一時的に混乱が見られる状態です。人の区別が付かなかったり,ないものが見えたり,ない音が聞こえたりすることがあります。また,ぼんやりしているかと思うと急に感情を高ぶらせることもあります

ポイントは、意識障害があり、錯覚や幻覚を伴うということか。私の中では、興奮しているというイメージがあったが、それは必須条件ではないのかもしれない。
いずれにしろ状態像としては、「不穏」よりも「せん妄」の方がはるかに狭い。だから、「せん妄」と書かれていても、イメージはできないことはないのだが、これはご家族さんたちにとっては馴染みのある言葉とは言えないだろう。だから、やはりこれも使わないようにしているのだった。

ところでもう一つ、意識障害といえば。
介護の現場では「単にうとうとしている」という意味で「傾眠」という言葉が使われているが、これは誤用であるように思えてならない。本来は意識障害を表す言葉ではないのか。声をかけるなどすれば覚醒するものの、すぐにまた眠ったようになる状態。

真のプロフェッショナルは、一般人にも分かる言葉によって、自らの専門性を示すことができるものだ。
そう、かのスティーブ・ジョブズのように。

それができないのは、自分では分かっているつもりでいても、分かっていないからである。

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