エントリ「自分についた嘘」で、バルーンカテーテルが入っているにもかかわらず、「おしっこ連れてって」と言い続けていた方のことを少し書いた。
その方は、トイレに行った後、何度もお礼を言ってくれ、訴えも消失したかに見えた。しかし5分も経つと、再び「おしっこ連れてって」と繰り返された。
そのままトイレにお連れし続けたら、訴えは変わったかもしれない。だがこの仕事を初めて間もない私には、そうした努力はできなかった。
「おしっこ連れてって」というその方の訴えは、その言葉が繰り返し発せられ続けた結果、口癖というか、さほどの意志も伴わずに出てくるようになってしまっていたのではないかと思う。
もちろん全く尿意を感じていなかったというわけでもないだろうが、そこまで差し迫った欲求という感じでもなかった。
もしも、ずっと早い段階で、その都度適切な対応をしてもらっていたら、そんな風に「おしっこ連れてって」と繰り返すようになどならなかったかもしれない。
今の施設にも、「かっぱえびせんおくれやー」と口癖のように繰り返されていた方がいる。
必ずしも本当に欲しいと思っているわけでないことははっきりしていた。何しろ、声を聞いてお部屋に伺うと、かっぱえびせんを口にくわえながら「かっぱえびせんおくれやー」と言われていることもよくあったのだから。
これも、最初の頃に適切な対応ができていなかったせいかもしれない。
訴えを放っておくと、事態は却って厄介なことになる。「口癖だからしょうがない」というわけにはいかない。
今その方は、肺炎による入院を経て施設に戻られているが、かっぱえびせんを食べる元気もなくなっている。
寂しいことである。
また「かっぱえびせんおくれやー」と言ってくれるといいな。