介護の専門性

介護(もしくは介護福祉士)の専門性、という言葉をあちこちで見かける。

介護の仕事は、訪問介護など一部の業務を除けば、無資格でもできる。そんな中で介護のプロとしての専門性とは何なのか、というわけだ。

これについて、現在最も広く受け入れられるであろう定義は、

「高齢者の健康と疾病についての医学的知識に基づき、残存機能の活用と身体機能の維持改善を図ると同時に必要な介助を行い、さらに生活の質が向上するための支援を行うに足る知識と技術」

といったところだろう。
このあたりは、エントリ「看護師は介護士より偉いのか」で私が述べていることと大差ない。

ここで問題なのは、
1. 「知識と技術」が求められているレベルに達していない職員があまりに多いこと
2. 介護福祉士資格がこれら知識・技術の習得をほとんど保証していないこと
3. 一方で、これら知識・技術に囚われてしまっている「専門家」が多いこと
である。

1と2はおわかりいただけると思う。しかし3は説明が必要だろうか。
介護理論が発展を続けている昨今、それに関心を持つ者は、理想と現実とのギャップに途方に暮れる。介護保険制度の未熟さ、高齢者が生活し介護職員が働いている環境の劣悪さ、介護職員の知識と技術のレベルの低さに。
このため、知識と技術が求められているレベルに達していない職員が普通に仕事を続けられる状況であることをもってして、「現在の介護には専門性なんてない」「専門性を確立しなければならない」と考える。
しかしこれは、態度を硬直させているに過ぎないのだ。

北海道浦河町にある精神障害者共同体、「べてるの家」では、プロというのは「自分の専門性から降りることをする人」としている(参考)。

対人援助職のあり方を、これ以上的確に表現している言葉を私は他に知らない。

この言葉は、精神科医は治療者という立場からのみ精神障害者を見がちだが、時にはそれを捨て、一人の人間として接することも必要であるという意味で発せられている。

これは介護にも当てはまらないだろうか。
援助者と被援助者という関係性だけでなく、時には一人の人間同士として相対する。それができなければ、知識や技術だけあっても永遠に半人前なのだ。
もちろん、「降りる」ためにはそこに一旦は上がらなければならないのだから、一人の人間として接するだけではやはり半人前である。知識や技術だってもちろん必要だ。

知識や技術だけでは必要とされる資質の半分に過ぎない。であれば、その半分だけに着目しても仕方がない。介護の専門性は、それだけではない。
「専門性から降りる」のが「専門性」というのも変な話だが、「べてるの家」の用いている「専門性」という言葉が、私よりも狭義であるというだけの話だ。

当たり前のことを言っているように聞こえるだろうか。しかし、知識・技術に囚われてしまって、そこから降りられない「専門家」は実に多い。降りているつもりでも降りていないのだ。「相手の身になって考えることが大事ですよ」という言葉を頭に浮かべながら、「専門家」として見ているだけの者が。

だからこそ、「言葉遣いは常に丁寧語でなければならない」とか、「どんな場合でも嘘をつくのは悪である」とか、「センサーマットを使うのは心理的な拘束だ」(逆に「拘束の定義に当てはまらないからOK」というのも同様)とか、視野の狭い言葉が口から出てくる。

私が考える介護の専門性とは、
「目の前の、そして未来の要介護高齢者の生活をより良いものにしていきたいというモティベーションを常に保ち、尽力し、かつ自らを成長させていける心性」
である。

これがあれば、たとえ入職1か月の新人でも私はプロだと思う(ただしもちろん一人前とは言えないが)し、逆になければ、介護福祉士だろうが介護支援専門員だろうが素人同然だと思っている。

心性なんて曖昧な言葉を定義に持ち込むことにも異論がありそうだ。しかしこれは他に的確な言葉が見つからない。性格または意思、あるいはその両方を指すからだ。
持って生まれた性格として、他人の役に立つことに喜びを見出せる人もいるだろうし、またそうした性格ではなくとも、そうありたいと努力することでも獲得できる。そういうものだ。

こんなものは専門性とは呼べないだろうか?
しかし、これを満たすのは、実は単に知識や技術を身につけるよりも遥かに困難だ。

他人の役に立つことを喜びとする人は少なくない。しかし同時に知識や技術を身に付けるための努力ができる者はそう多くはない。他人の役に立ちたいだけならボランティアと変わらない。違いは、報酬を得ているかどうかということだけだ。
そして、これを持っているということは、その職員は一人の人間として利用者さんに接することができるということでもある。その方の生活を良くしていくことを真剣に考えれば、どうしたって相手の立場に自分の身を置いて考えることになる。
さらに、向上心があれば、遅かれ早かれ(そのスピードには個人差がある)必要な知識と技術を必ず身に付ける。こうして一人前の職員になれる。

そういうこと。

専門性、ありますよ。
こんなマイナーで風変わりなブログをご覧くださっているあなたには、特に。

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