餅つきとリスク

うちの施設で、餅つきがあった。

本来の風習に従えば、餅つきは年の瀬に行っておくべきだ。しかし、年の瀬はまだクリスマスも終わったばかりで、すぐにお正月となる。季節の行事が短期間に集中するよりは、程良く分散させたいという都合により、昨年からは年が明けてから行うようになった。
本当なら、やっぱり年内にやっとくべきでしょと思うのだが、何しろ私1人でできることではなく、介護や調理職員の協力も必要なので、そこを押し切ってまでこだわることでもないと思っている。
臼と杵は私が前の職場から借りてくるので、先方の都合もあるし。

餅つきは、玄関前ホールにブルーシートを敷き、臼を置いて、それを取り囲むように入居者さんたちに座っていただいて行う。始めは職員がつくが、途中からは入居者さんたちにも杵を握っていただく。もちろん杵は重いので、お一人では無理だが、職員が手伝うことで、全員の方が餅つきに参加される。
今年は残念ながらお二人ほど参加されなかった。うちお一人はその時にご面会があって参加を希望されなかったためで、もうお一人は強迫性障害(アカシジア?)のためにじっと座っていることのできない方だ。始まってから間もなく、お部屋に戻ってしまわれた。

例え形だけであっても、杵を持つと皆さん真剣に、普段からは想像もつかないような力で餅をつかれる。そしてその後の笑顔。やって良かった、といつも思う。

さて、ついた餅だが。
表向きはその後のおやつの時に、皆さんと職員で一緒に食べる、ということになっている。しかし入居者さんが食べるのは、それとは別に職員が作った、粘度の低い、「お餅のようなもの」。
こうしているのはもちろん、お餅が喉に詰まるという事故を防ぐためだ。

だが、これは本当に必要なことなのだろうか?

私の以前の職場では、ついたお餅をそのまま食べていただいていた。
もちろん嚥下機能に応じて相応の加工をしてお出しするが、ほとんどの方はそのままだ。そして事故が起こったことはない。

お餅に限らず、安全に固執することは、自由を奪うことにもつながる。
お餅ぐらい食べさせてあげたい。

以前の職場では、私はそう考え、お餅を食べてもらっていた。今の職場でも同じように考えたのだが、周囲の職員に反対された。ここでは私は管理者ではないので、意見を述べることはできても、指示することはできない。そして説得もできなかった。

その結果、入居者さんには嘘をついてお出しすることになったわけだが……
今では、むしろそれで良かったと思っている。私より周囲の人の方が正しかったと。

入居者さんの中には、自分が食べているのが本物でないことに気づいた方もいるようだが、その方を除けば、皆さん「やっぱり臼でついたお餅は違うね」ととても喜ばれる。

テレビ番組「芸能人格付チェック」などでもわかるように、我々の感覚はそれほど鋭敏ではないし、外部からの刺激を正確に脳に伝えているわけでもない。神経の伝達する情報は脳で別の情報からの干渉を受ける。いわゆる「思い込み」だ。お餅だと思って食べれば、それが与えてくれる食感、味、そして満足感はお餅と同じなのだ。

またご家族さんも、今度餅つきをしますと言うと、一瞬顔を曇らせる。やはり心配なのである。そこで、実はこれこれこうで……と説明すると、笑顔で「それは良いですね!」と言われる。
万が一事故が起きたら、すぐに対処し大事に至らなかったとしても、それを聞いたご家族の方はどう思うだろうか。
また、取り返しのつかない事態になってしまったら?

私が、「お餅ぐらい食べさせてあげたい」と考えたのは、入居者さんのことを思ったと言うよりも、「そういうことをさせてあげる自分は優れた援助者だ」という自己満足に浸りたかったからではないか?
お餅を食べていただくということは、たとえ万全の準備があってもゼロにはできないリスクに、入居者さんを晒してしまうことになるのではないか?

そんなことにこだわるくらいなら、その分外食に連れ出してあげればいい。食べたいと思われるものを食べに。
その他にも、できれば叶えてあげたいご希望はたくさんあるはずだ。何も本物のお餅にこだわる必要なんてない。

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餅つきとリスク」への2件のフィードバック

  1. 新年明けましておめでとうございます…。というのは、松ノ内までだから、今ごろ言っていてはダメですね。餅の喉詰めの問題は難しいですねぇ。自己満足というのもわかります。
    それにしても、さすがに参加率高いですね。特養では参加利用者は一人だけです。丸め係りは5人くらいいるかな?
    では、失礼します

  2. >あっくん様
    新年最初ということで……あけましておめでとうございます<(_ _)>
    特養でも、利用者さんは杵でついた本物のお持ちを食べられるのですか? やっぱり本物を食べてもらうほうがいいのかなあ。
    記事では自信満々な書き方をしてますが、それほど自分たちの対応に自信を持っているわけではなかったりします。正しい答えなんてないのかもしれませんしね。

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