手の届く範囲

私の職場である、介護付有料老人ホームに勤めていた看護師の話。

もともと病院勤務だったが、体調を崩し退職。リハビリの意味も含め、まずは介護職としてうちの施設に入った。やがて復調し、看護師として勤務するようになったが、今年の初夏に退職し、現在は病院に勤めている。

復調したらまた病院で経験を積みたいという希望は初めから持っていた。そんな彼女から言われたことがある。

曰く、「介護付有料老人ホームに入れるのは、ある程度裕福で、要介護状態にあるという不自由をお金で解決できる人ではないか。お金がなくて必要な援助を受けられない人はたくさんいる。そういう人の役に立つ仕事がしたい」と。

確かに、収入が国民年金だけ、という方に毎月15万円を超える支払いは難しいだろう。
もっとも、特養だってユニット個室なら月の支払いはうちと同じくらいになるので、そんなに介護付有料老人ホームの利用料が高いとは思わない。もちろん入居一時金はあるが、それほどの金額ではないし。
私は、生活の場所としては個室であることが絶対条件だと思っているので、要介護の方が生活の場所を得るためには、この「15万円」というのは最低の基準と言ってもいいと思っている。わが国の現状では。

とは言え、もちろん私も、彼女の言うことには共感できる。
私はかつて老健で支援相談員をしていたので、「お金で解決できない」多くの入所申込者さんに会った。入所申込者さんは年に200人以上おられたので、その老健に入所していただける方はごく一部。残りは、直接自らが援助することはできない。
それでも、「自分が相談を受けた以上は、入所申込者の方も『相談者』である。直接援助することはできなくても、困りごとを解決するために何らかのお役に立ちたい」と思った。だから、入所申込書を受け取って「こちらからの連絡をお待ちください」で終わり、ではなく、市の窓口や地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、ショートステイなどの居宅サービス事業所、療養型、軽費老人ホームなどをご紹介し、各事業所の担当者に依頼の連絡をしたりした。別に自慢しているわけではない。当たり前のことだ。

だが、老健を退職することになって、自分のしてきたことについて振り返り、次の仕事について考えたとき。多数の、自分が直接援助できない人にとって僅かの役に立つよりも、自分の手が直接届く範囲の中で、大きく役に立ちたいと思った。

たくさんの患者さん、利用者さんを看る仕事はもちろん大事だが、そんな中で自分のしたいような援助をするのは難しい。「手の届く範囲」を広げようとした結果、時間に追われ、周囲と衝突し、疲れ果てた職員を何人も見てきた。

うちは、自分のしたい援助がしやすい環境だ。だから充分にやりがいの持てる仕事だと思う。
そう彼女に話した。それがどう受け止められたのかは分からない。

介護の現場の隅っこからでも、自らの提供するサービスの質を上げる努力をしていれば、それが未来の日本全体の福祉の向上に貢献できることはあるはずだ。つまり、未来の多くの高齢者の役に立つことができる。

そう思いながら仕事をしている。

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