老健の支援相談員

私は3年ちょっとの間、介護老人保健施設で支援相談員をしていた。
その間ずっとではないが、私には、「人間ではなかった」時期がある。

支援相談員の一番の仕事は、何と言ってもベッドコントロール。つまり、無駄な空きベッドを作らないようにすることだ。ベッドを空けておくということは、その分の収入を損していることに他ならない。

入所者が、老健から退所する理由は大きく分けて4つ。逝去、入院、多施設への入所、在宅復帰である。
老健は在宅復帰支援施設ということになってはいるが、実際には特別養護老人ホームに入所できるまでのつなぎ、という利用がほとんどだ。

在宅復帰は、事前の準備が必要なので計画的に行うことができる。しかし、逝去が前もって予測できないのはもちろん、多施設への移動もえてして突然である。まして入院は厄介だ。ある程度は退院を待ってベッドを空けておかなければならないし、待った挙句に亡くなってしまうこともある。
こうして空いたベッドを速やかに埋めることが、支援相談員には求められる。

ベッドが空いてから、次に入っていただく方を考えるのでは遅い。入所までには短くとも1週間程度はかかってしまう。
ある程度予測し、先を見越して動いておかなければならない。

結果、相談員としてはどうなるかと言うと。
予測していたようにベッドが空けば良いが、そうでなければ……定員オーバーになりそうになると、現在の入所者が入院したり、亡くなることを心の奥で願うようになるのだ。ベッドを空けてくれ、と。

また、稼働率を上げるには、空きベッドを利用したショートステイの割合を増やすのが手っ取り早い。定員である100床のうちの、ショートステイ用のベッドの数を増やすのである。
入所定員には、その日退所する利用者は含まれないので、例えば100人定員の施設で、1日でショートステイの方が5人退所して入れ替わりに5人入所したとすれば、その日は105人分の利用料が稼げるわけ。

そのため、ショートステイの割合を上げていった。
結果、1ヶ月の稼働率を103%くらいまで上げたことがある。

数ヶ月先までのショートステイの予約を、定員よりも多少オーバーするように入れておく。その月が来るまでの間に、ショートステイの利用者がキャンセルしたり、入所者が入院したり亡くなったりすることをある程度見越しておくわけだ。
それでも日が近づいてみたら、このままでは定員オーバーになってしまう、ということは珍しくない。そうすると、ショートステイの方のケアマネに連絡し、日程の変更を願い出るしかなくなる。「入院されていた方が急に退院されることになったので、お部屋が用意できなくなってしまいました」などと適当なことを言って。
こうしていると、次第にショートステイの利用者は急な日程変更ができる方ばかりになっていく。そして、ある程度こちらに合わせてくれた方は、後に優先的に施設へ入所していただく、と。

しかしこの方法には欠点があった。
施設内でインフルエンザの集団感染が起こり、施設長医師からショートステイの入所にストップがかかってしまったのだ。
これにより、稼働率が85%くらいまで下がった。

私は理事長から厳しいお叱りを受けた。この稼働率は何事かと。
その時に施設長医師が言ったのは、「私の言うことなど聞かずに入所させればよかったのに、そうしなかったお前が悪い」である。

ここに至って、私は潰れた。

入所の相談を受けている最中で、亡くなってしまった方の遺族よりいただいた手紙。
「○○さん(←私の名前)には本当に親身になって相談に乗っていただきまして、どれだけ私たちは嬉しかったことでしょう。この数日、とても心強かったです。ありがとうございました。今回はこういう結果になりましたが、今後も私たちのような、困っている人を助けてあげてください。」

涙が出た。
私は、「この人、もう先は長くなさそうだから、これ以上関わるべきじゃないかな。どうやって手を引こうか」なんて考えていたのだから。

私はベッドコントロール担当者としては優秀だったと思う。あの時の私が与えられていたのと同じ条件の下で、私以上の結果を出せる人間はほとんどいないだろう。
だが、プレッシャーによって、支援相談員として、そして人として大切なものを失ってしまった。

別に、自分が評価されたかったわけではない。稼働率が上がらなければ職員の待遇も下げざるを得ない、そう理事長に言われていたからだ。実際、全職員の賞与の額は、稼働率によって上下した。
職員を守りたかった。しかしそのためには圧倒的に力不足だった。

今では、少しは人間らしく仕事ができているかな?
そしていつかは、職員を守れるだけの力をつけたい。

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老健の支援相談員」への2件のフィードバック

  1. 初めまして
    ご苦労なさったのですね・・・
    その徒労感、痛いほど分かります。
    偶然の訪問で拝読させて頂きました。
    実は私も同業務を続行中の身です。
    ある意味、清濁併せ呑んで肝が据わってないと務まらないのかなと。
    割り切るか、調和か・・・
    いずれにしろ数字に追われる度合いが厳しいほど、信念がなくては務まらない職種かとも思います。
    ブログ主様の今後のご活躍に期待致します。

  2. >通りすがりの仮面ライダー様
    いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。
    そうですね、その頃の私はまだまだ青かったです。信念などなかったので、状況に流された結果、ふと自分の身を省みた時に、あっさり絶望してしまいました。
    それでも老健って本来の役割はとても大きなものだと思うので、そこで頑張っている方には心から応援したいです。
    また何かお目に留まりましたら、コメントよろしくお願いいたします<(_ _)>

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