愛の力

今年の始め頃。うちの施設でお二人の方が続けて亡くなり、部屋が2つ空いた。
何人かの入居申込者があり、管理者が相談を受けていた。

その中のお二人の話。
ご夫婦一緒に入居を、という話だった。もともと夫婦二人暮しだったが、ご主人が入院。奥さんは認知症のため一人で暮らせず、ショートステイに入っているという。
ご主人の診断名は、摂食障害・糖尿病・狭心症・高血圧症・認知症・心房細動。昨年の暮れに肺炎で入院、退院後も食事・水分が摂れず、再入院。主治医からもう先は長くないだろうと言われているとのこと。
奥さんの入所は問題ない。だが、ご主人の方は……という話になっていた。

インテークで、入院しているご主人に会いに行った。
点滴を行っていて、食事はほとんど食べられていない。どうも味覚がなくなっているらしい。水分が摂れずに、ドライマウスになっているせいか?
お話はしっかりされていた。「かあちゃんに会いたい」としきりに言っていた。

主治医は、これ以上できることはないので退院しても良いと言ったり、とても退院できる状態ではないと言ったり、二転三転していたらしい。
やがて退院の許可が出たが、余命は一週間程度かもしれない、とのことだった。

管理者から、どうしようか? と言われた私は、「夫婦が最期の時間を一緒に過ごせるのなら、充分に入居してもらうだけの意味があるんじゃないですか? すぐ亡くなってしまうかもしれないですけど、これもご縁だと思って、入ってもらいましょう」と答えた。

退院後の主治医は、地域で在宅緩和ケアの主導的役割を果たしている先生にお願いした。いつ何があるかわからないので、24時間対応できる先生にお願いしておくべき、ということで。

そして、ご夫婦は入居された。奥さんのほうが一足早く入居されていたので、遅れてやって来られたご主人は、久しぶりに奥さんに会い、いたく感激されていた。

入居してしばらくは、口から飲むメイバランス(濃厚流動食)だけで命を繋いでいた。食事は形だけお出ししているだけだった。
しかし、少しずつ箸をつけるようになり、やがてメイバランスを中止、さらには食事の量も増やし……

今では毎食完食されている。
「ここの飯はうまいなー」が口癖だ。元気そのものである。

こうして元気になったのは我々のケアのおかげ……ではない。ありきたりの援助をしただけなのだから。

全て、奥さんと、そしてご本人の愛の力である。

一緒にいることが、何よりも効く薬だったというわけだ。
いやはや。

ところで私は、その方に「先生」と呼ばれている。
その方は数学の教師をされていた方で、普段は数独を真剣にされているのだが、ある時、お部屋にお邪魔したら、ルービックキューブをやっていた。
1面を揃えて、「この揃ったところを崩さずに、他を揃えるのが難しいんだ」と言われていたので、「へえ、すごいですね」とか話しながら、目の前で6面全てを揃えてみせた時の、その方の驚いた顔と言ったら!

ルービックキューブが流行ったのは私が子供の頃だった。確かガチャポンのルービックキューブに解法を記した紙切れが一枚入っていて、幼い私はそれを懸命に覚えた。未だに手が覚えているというわけ。
動かし方には、いわば公式みたいなものがあるので、時々キューブを見て現在の配置を確認すれば、ずっと手元を見ていなくても揃えられる。1分30秒くらいはかかってしまうが。

そう、私は「ルービックキューブの先生」というわけである。
何が賞賛を浴びるか、分からないものだ。

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