あとはただ、やすらかに

最近、目に見えて食事・水分摂取量が落ちている方がいる。
主な疾患はパーキンソン病。主治医によると、多発性脳梗塞も起こしているかもしれないとのこと。
発語はあり、こちらの言葉に答えられることもあるが、コミュニケーションは取れているとは言い難い。日常生活上の動作は全て介助させてもらっており、職員が介助動作に入る前にかける言葉の理解も難しく、四肢に力を入れてしまったり、恐怖心から噛みつこうとされたりする。
食事は、その時々で差はあるが、調子がいいときには手づかみなどで食べられることもある。お好きな乳酸菌飲料などを除いて、水分は進んで飲もうとはされず、職員はやむなく食べ物を口元まで運んで口を開けてもらい、さっとカップを差し出して飲み物を口の中に入れさせてもらったりしている。
傾眠や、目は開けているもののぼーっとしているため、食べ物や飲み物を口の中に溜め込んでしまうことが頻繁になっている。

先日、ご家族の方に来ていただいて、主治医からの病状説明と、ご家族の意思の確認を行った。
主治医曰く。今すぐにどうこうという状態ではないが、暑い夏を乗り越えられないかもしれない。そしてご家族の意向は、経管栄養などを行って苦しみを長引かせたくないので、食べられなくなったらそれはもう仕方ない。なるべく安らかに過ごして欲しい。というものだった。

この方のケアプランの担当は、ケアプランチームのメンバーではなく、私。
これまでの私のケアプランは、①窒息や誤嚥を予防する。②できる機能を維持していただくため、特に食事動作は可能な限りご自身で。③ご家族のことなど反応の良い話題を探して話しかけたり、歌など受動的でも楽しめるレクの提供。④柔軟性の維持のためオムツ交換時や入浴時には関節のストレッチを他動的に行う(専門職員が行うわけではないので関節稼動域訓練という言葉は使っていない)。⑤不安を少しでも減らすため、介助の前には必ず言葉で説明するのはもちろん、自ら協力的に動いてもらえるよう努める。以上を援助内容に挙げていた。

が、今回の面談を踏まえ、プランを変える必要が生じた。
簡単に言うと、これまでのプランは、頑張って少しでも長生きして欲しい、という思いで立てていたが、もう頑張らなくてもいいんですよ、残された時を安らかに過ごしてください、という方針に変えるわけだ。

複雑ではある。まだできることがあるのでは、という思いがあるとやはり辛い。

これまでうちの施設で看取ってきた方は、末期がんであったり、心機能が限界まで落ちていたりして、もうできることは何もなく、あとはただ安らかな最期を、という方だった。しかも、まだ比較的お元気なうちに、ご本人の意向を確認しておくことができたりしたので、何の迷いもなかった。

しかし今回は、ご本人の意向も確認できず、ご家族はいわゆる延命措置は望まれていない。水分摂取量が減ってきたら点滴、それでも改善されなければ経管栄養を行えば、多少なりとも生命を繋ぎとめておくことはできるだろう。しかし心身の機能が改善されることはおそらくないのだから……

苦しみを長引かせるだけ、と言われればそうなのかもしれない。
そこで、変更したプランの援助内容。
① 肺炎は苦しみとなるので誤嚥を予防。②食事や水分は、一定量を摂取してもらうことよりも、美味しく感じてもらうことを第一に。③反応の良い話題を探して話しかけ、身体的接触による安らぎも感じてもらえるように。④移乗は怖さを感じないよう、2名介助で。⑤生活リズムを作るための離床にこだわらず、傾眠時などは無理せず休んでいただく。

個別機能訓練計画の内容はものすごく悩んだ。基本的に機能の維持回復は求められていないのだから。
そして悩んだ挙句、自分で食事を食べられるという楽しみがわずかでも持ち続けられるように、手指のマッサージ、いわゆるタクティールケアを中心にメニューを作った。

初めてこのタクティールケアについて聞いた時には、いかにもハグやキスといった身体的接触が普通に行われている欧米らしい考えで、握手さえ黒船来航以降の日本人には合わないのでは……と思った。
それでも、うちの管理者がタクティールケアの本を買って来ていたので、それを家に借りて帰って試してみたところ、うちの奥さんはとても気持ちが良かったらしい。

なるほど、文化がどうこうという問題ではなくて、人間の本能に訴えかけるものがあるのだな。
もちろん合わない方もいるとは思うが。

本日、その方のケアカンファレンスを行った。
いきなりタクティールケアとか言われた職員はかなり面食らってる感じだったが、別に教科書通りにきちんとやらなければいけないというものでもない、傍らに寄り添って、手を取って、コミュニケーションを図りながらゆっくりとほぐしてあげれば、手順だの回数だのは気にしなくていいんだよ、と説明したら分かってもらえたようだ。

これでいいのかな。
こういう時に相談できる人がいないと、ちょっと寂しい。

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