パーキンソン病と夢

パーキンソン病は、ものすごく大雑把に言うと、脳神経が変性してドーパミンという神経伝達物資が不足して起こる。
有病率は10万人あたり100人くらいと言われている。後期高齢者(75歳以上)の現在の人口比率は10%程度で、またそのうちの要介護状態の発生率は約2割なので、有病者のほとんどが後期高齢者であり要介護認定を受けていると仮定すると、パーキンソン病の方は要介護者20人に1人ほどいる計算になるが……介護の現場にいると、もっと多いのでは? と感じる。私の施設でも、定員29名のうち5名の方に、パーキンソン病の診断名が付いている。

以下は、何ら医学的根拠のない、私の勝手な想像だが……
生物が体を動かすとき、脳は「動け」という命令と同時に、「動くな」という命令も出している。いわばアクセルとブレーキを同時に操作することで、精密な動きを可能にしているのだ。パーキンソン病はその神経伝達を阻害するので、「動け」「動くな」の両方の命令がうまく伝わらなくなり、結果「振戦」と言われる手の震えや、歩行障害などが起こるのではないだろうか。
パーキンソン病の方には、ドーパミンを増やす薬(ドーパミンそのものは脳の関門を通れないので、ドーパミンになる前の物質)を飲んでもらうことが多いが、ドーパミンを「適切な」量に調節するのは簡単ではない。多くなると、神経伝達が促進されすぎて、脳内で記憶や感情が必要以上に喚起して互いに結びついてしまい、幻覚や、いわゆる不穏状態(嫌いな言葉だが……)が現れる。
いわば覚醒している状態でありながら、夢を見ているのと同じことが起こっているのだと思う。夢は、フロイトが提唱したような意味(願望の充足+日中の残滓)を持っていることもあるのかもしれないが、大抵は、脳内でランダムに電気的刺激が発生し、その際、脳のその部位に格納されていた記憶が主に視覚を伴って蘇り、それが連続することで作られているに過ぎないのだから。

さて。うちの施設に、パーキンソン病で、この「不穏」がしばしば現れる方がいる。主に夜間だが、最近では日中にもしばしば見られる。
曰く、「村長選挙に行かないと」「庭の蚊の死骸を掃かないと」「布団の綿を替えないと。綿のスイッチを切り忘れたんだ」など。表情が険しかったり、出て行こうとされることもしばしばある。

この症状を「認知症」と表現するのも間違いではないのかもしれないが……通常の認知症とは違い、記憶力はさほど衰えていない。このため、現在の不安を取り除くことを第一に考えて、その場限りのことを言うと、それを後まで覚えていて、かえって混乱させてしまったりする。

といって、興奮されている時に、認知症とは違うのだからきちんと説明すれば分かってもらえるはず……と懸命に話をしても、決して理解はしてもらえない。話せば話すほど興奮されてしまう。

それでいて後で落ち着かれた時に「俺はおかしくなった」「あの職員に酷いことを言った」と落ち込まれることもあるので、いっそ真剣に取り合わないほうが却っていいのでは? と思い、興奮された時にはとにかくお部屋へ誘導して、しばらくお一人にしておくようにしている。すると1、2時間後には穏やかな顔で挨拶してくださったりするので、今のところ、この方法が一番うまくいっているように思う。

根本的な解決策としては、薬を減らしてもらうしかないのではないか。しかし当のご本人が、体の動きが悪くなるのを恐れていて、「おかしくなる」のも止むを得ない、薬は減らさないで欲しい、というご希望なのだ。

家族にとっては、こうしたことは全て病気や薬のせいとわかっていても、なかなか受け入れられるものではないのだろう。元気だった頃とのあまりの変わりように耐えられず、施設入居となるに至ったのも理解できる。
しかし私たちにとっては、どうということはない。夢を見ているのと同じだと思えばなおさらだ。

ご本人と一緒に「夢」と上手く付き合いながら、「やがて自分は動けなくなっていくのだ」という不安に寄り添っていきたい。

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